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しかしよくよく調べてみると、プロのクラシックトランペット奏者のマウスピースはBach 1Cでありながら、1C-22-24や1C-24-24、1-1/2C-25-24のようにスロートを22~26に拡張し、バックボアはシンフォニックな24に変更されています。またカップの深さもCを好む人がいる一方でBを好む人も多く、中にはCのリムにBのカップをネジで連結させたものを使用している人もいます。オーケストラの中で大きな音を出すためには大きな口径のマウスピースが必要とは言え、どうして「標準品」にこのような手を加える人の方が多いのでしょうか? 結論から言うと、27スロートや各バックボアは5番のリム以下を想定してNew York時代に確定したもので、1~3の大口径マウスピースの為のものではないからです。Bachが生きていた頃のオーケストラ奏者は、5~8のリムを使用しており、1~3は特注の大きさでした。しかし、ボストン交響楽団やシカゴ交響楽団に供給された大型のC管の開発、オーケストラの音の大型化、Adolph Hersethの登場により、Bachトランペットがアメリカのクラシック界を制覇した1970年代以降は1~3のマウスピースを使う奏者が増えていきました。日本でも1980年代~1990年代にアマチュア奏者の間で大きなマウスピースを好む流れができたため、現在でも多くの人が1~3のリムを使用しています。6番のリムを愛用しているシカゴ交響楽団のJohn Hagstromのような奏者は、現在かなりの少数派と言えます。 |
※ こちらの対照表はあくまで大まかなものです。各社発表による相当品を参考に作成しました。各社でマウスピースの入り口からどれくらいの距離で計測しているかが異なるため、各社が公表しているマウスピースのリムサイズ計測値は直接比較する事ができません。リムエッジの形状等にも左右されます。 |
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6-C, 7-C, 8-C | |
2-1/2, 3, 6, 6-1/2, 7, 7C, 8, 9, 10 | |
3, 5A, 6, 6 1/2A, 7, 7C, 7A, 8, 8C, 9A, 10, 10C,10 1/2A, 10 3/4A, 11A, 11 1/2A, 12 | |
6, 6B, 6C, 7, 7B, 7C, 7BW, 7CW, 8, 8B, 8C, 8-1/2, 8-1/2B, 10-1/2C, 10-1/2CW 11B, 11C, 11DW, 11EW 12C, 12CW 17C1, 17C2 |
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ここで着目したいのは、6・7・8はリム口径が同一であり、リム形状が異なるという点です。 6はオーケストラ奏者用、7と8は軽音楽奏者用のリム形状をしているのです。 Bachはダンスバンドやサーカスでの演奏経験と、北米オーケストラでの現場経験から、 口径やカップ深さに変化をつけるのではなく、カップ口径と深さが適切であればジャンルを問わず演奏できると考えていました。 そして、唇と接触するリムの形状こそが最も大切で、どのような発音がしやすいかのか・高い音が出やすいか、などの要素を決定していると考えたのです。 6のリムは癖のない音の入りで、輪郭が美しくはっきりとした音作りが可能です。 一方で7と8は様々な発音や表現ができて、口径を最大限に使う事ができます。 1920年代や30年代は、オーケストラよりも軽音楽の方がより多彩な吹き方を要求された時代だったのです。 現在Cカップは「中庸」というイメージが定着していますが、作られた当初は明るくかなりはっきりした音を想定されて開発されていたのです。 20世紀前半の北米のオーケストラのトランペットは、柔らかく丸いコルネットの音とは差別化された、明るい音色が求められていました。 マウスピースの深さが持つ現在のイメージとは大きくかけ離れていることが分かります。 11のリムは、19世紀のフランスの楽器の為に作られたリムです。 19世紀フランスの作曲家は、トランペット2本・コルネット2本、計4人の奏者を必要とする曲を書きました。 ドリーブのバレエ『シルヴィア』『コッペリア』等が代表的な例です。 これらの楽曲を演奏する際に、昔のフランスで使われていた楽器に合うことをコンセプトに、11のリムは作られました。 小ぶりな口径で歯切れの良い音が鳴り、Aカップはコルネット、Cカップは小型のC管での演奏が想定されています。 19世紀のフランスではアーバンやフランカン等の名手が生まれ、それぞれの流派を確立していきました。 現在このリムに合う楽器が生産されておらず、マウスピースとの相性が最適な楽器を求めるならば、 1960年代以前に製造されたCourtois、Selmer、Couesnon等の楽器を探さなければなりません。 同様に12のリムは、ニニロッソに代表されるイタリアでの奏法の流派で演奏する人に好まれたリムです。 当時のイタリアではKINGやSelmerのB管を使用していました。 現在の楽器ではBengeやMボア38ベルのBachと相性が良く、一部の北米西海岸の奏者に好まれています。 11・12のリムは1950年代までは定番のリムナンバーでしたが、その後廃れて行ってしまい、現在Bachの11や12のリムを使用する奏者はかなりの少数派となっています。 フランスやイタリアの奏者の奏法は、北米のクラシックや軽音楽のものと明らかに異なっており、 1970年代までは明確にジャンル分けされていましたが、その後時代と共に消えていきました。 Born : February 28, 1825 in Lyon France Died : April 8, 1889 in Paris France フランスのコルネット奏者、教師、作曲家。教則本アーバン著者。 ※ Merri Jean Baptiste Franquin Born : October 19, 1848 in Lançon Bouches-du-Rhône France Died : January 22, 1934 in Paris France フランスのトランペット奏者。23歳でパリ国立音楽院に入学し、Arbanのクラスに在籍。 在学中に長管F管トランペットをC管トランペットに置き換える。 これにより、1870年代頃よりフランスではC管トランペットが広まっていった。 1894年から1925年までパリ国立音楽院のトランペット教師。 弟子にGeorges Mager (1919年から1950年までボストン交響楽団の首席トランペット奏者。1940年代にBachに依頼し、B管のような音が鳴る大型のC管を製作させる。Adolph Hersethの師。) やEugène Foveau(1925年から1947年までパリ国立音楽院のコルネットの教師。Pierre Thibaudの師。)がいる。 Raffaele Celeste 'Nini' Rosso Born : September 19, 1926 in Torino Italy Died : October 5, 1994 in Rome Italy 20世紀イタリアで最も良く知られたジャズトランペット奏者。 1960年代に多くのレコードをリリース。「夜空のトランペット (Il silenzio)」は100万枚以上の売り上げを記録する。 Born:October 30, 1930 in Wilmington, Delaware, U.S. Died:June 26, 1956 in Bedford, Pennsylvania, U.S. アメリカのジャズトランペット奏者。25歳の時に自動車事故で亡くなる。 標準品のBachマウスピースのスロート部分は27番のドリルが使用され3.66mmの穴が開いています。 1920年代のBachの考えは、「トランペットは27スロート、コルネットは必要に応じてスロートを拡張しても良い、口径は同一」 というものでした。 創業当初からのリム口径であった6~8程度のマウスピースには、27スロートが最適な大きさのようです。 SchilkeやGiardinelliのマウスピースでも27番のドリルが採用されていたり、ヤマハのマウスピースのスロートサイズが3.65mmであったりする事から、 かなり試行錯誤されつくしたサイズであることが分かります。 Born : January 1, 1896 in Ukraine Died : December 18, 1982 in Bay Harbor Florida アメリカのトランペット奏者。フィラデルフィア交響楽団、サンフランシスコ交響楽団、NBC交響楽団、ニューヨークフィルで首席トランペット奏者を務める。 Max Schlossberg、Christian Rodenkirchen、Gustav Heimら名だたる奏者からトランペットを師事。 弟子にフィラデルフィア交響楽団で1975年から1995年まで首席奏者を務めたFrank John Kaderabekがいる。 |
A : Cornet用、C : C管トランペット用 | |
(B管と、小型のC管・D管用) | |
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オーケストラでBカップを使う事が広まっていくにしたがって、Bachは管の長さとカップ容積を再考し、以下のようにカタログに表記し始めました。 |
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これらから、リム形状を重視していたBachに対し、顧客はリム口径やカップの深さでマウスピースを選択する流れができた、という事ができます。 1938年のBachマウスピースのカタログでは管の長さによってカップ容積が分けられていましたが、 次第に様々な口径・深さに色々なジャンルを想定したリム形状が混在しはじめました。 マウスピースのカップ容積+ベル容積=音質の決定 という図式から、239ベルのようなベル容積の大きな楽器が開発されました。 一方マウスピースカップの容積を大きくしようとして深くすると、管が短い分演奏が困難になります。 カップの深さを求める事が難しい場合、リム口径を大きくする事でカップの容積を大きくするしかない為、 大きなリム口径のマウスピースを使用する事がより豊かな音を出す条件となります。更に マウスピースのスロートサイズ+管のボアサイズ+管の長さ=音量 という図式から、音量を確保するためにLボアが選択されました。 マウスピースのスロートサイズを拡張する場合、リム口径が大きなものが好ましいと言えます。 これらの他に、マウスピースのバックボアも細い10や7よりも、より開きが早く太い24や117が豊かで大きな音を出すのに有利になります。 1948年にシカゴ交響楽団の首席奏者に就任したAdolph Hersethは、元々7Cのマウスピースを使用していましたが、 交通事故にあってできた唇の傷にマウスピースが当たらないように1C・1Bのマウスピースを使うようになりました。 大口径のマウスピースでBachのC管から生み出される音は人々を魅了し、アメリカ国内で大きなマウスピースでBach C管を使う事が広がり始めました。 マウスピースをBach 1~3程度・カップをBかCにすると、大きなマウスピースで自由に楽器をコントロールする為には25Cパイプ・Lボアという選択が好ましいと言えます。 またパイプを25にすると、全体的な楽器のバランスとしてベルは229か239という選択になります。 小さなマウスピース対応した組み合わせとなると、MLボアの7Cパイプに229ベルという組み合わせが選択に上がりますが、 音質の点で大きなマウスピースを使用したLボア・25Cパイプの楽器にはかないません。 また25Cパイプの最も細い部分の内径を拡張した25Hパイプ(B管の25-OパイプをC管用に短くしたもの)をAdolph Hersethが使い始めた為、 楽器の内径とマウスピースの大型化の流れは一層強くなりました。 1980年代~1990年代頃までは、MLボアの239ベルや229ベルのC管が日本でも販売されていましたが、 現在は新品で売られているBach C管の殆どがLボアの楽器となっています。 一方でBach本人は、マウスピース大型化の波が来る以前の1961年に会社を売却して引退しました。 1974年までは古いMt.Vernonの施設でで少数の顧客の為にカスタマイズ対応をしていましたが、1976年に亡くなっています。 残念ながら、Bach本人が1~3の標準品リム形状を開発する事は無く、ベストなスロートサイズやバックボアも研究されていません。 Bachが会社を売却した1961年、アメリカのオーケストラの奏者達はB管に5~8のリムを使用していたので、 27スロートや10番バックボアは最適な形状として受け入れられていました。 また1961年段階のB管はこれらのマウスピースと相性が良くなるように調整された結果、25パイプ・37ベル・ML(180ML 37/25)ボアというセッティングとなりました。 マウスピース大型化の波により、このB管もBach引退以降に大きなマウスピースで演奏されているという現実があります。 2018年にBachからシンフォニックモデルと称し、1C・1-1/4C・1-1/2Cのリムに26~22のスロート、24バックボアのマウスピースが標準品として発売されています。 このシンフォニックモデルは後に2Cや3Cにも追加されました。 「太いバックボアは豊かな音が出る」と言われますが、音量にも影響します。 24バックボアは10バックボアや7バックボアよりも容積が大きい分、大きな音が出しやすいのです。 特注対応にはなりますが、5Cや6Cを26スロートに1段階のみ拡張し、24バックボアにするという組み合わせも、悪くない選択肢と言えそうです。 また現在MonetteやBreslmairから発売されているマウスピースは、Bachの24バックボアよりもはるかに太く広がりの早い形状となっています。 |
しかし1970年代になるとSchilkeからMボアを採用したD/Es管E3LやE3L4が発売され、soloやオーケストラの現場でD/Es管で大きな音を出すようになりました。 これらの楽器に7DWを用いると音が明るすぎてオーケストラの中で浮いてしまいます。 またBカップやCカップで大きな音を出そうとすると、音程やコントロール面でベストな選択とは言えません。 Bach引退後のSelmer(U.S.A.)からも、MLボア239ベルを採用した189、Lボアを採用した189XLも登場し、D/Es管のボアの大型化が進みました。 これらの楽器は20世紀前半のD管とはかけ離れているため、Bachのマウスピースと組み合わせるとバランスが良くないのです。 Maurice Andréは早期からこの組み合わせの悪さに気付き、C管・D管・Es管は1966年から1985年までSelmer(Henri Selmer Paris)を使用していました。 Born:May 21, 1933 in Alès, Gard, France Died:February 25, 2012 in Bayonne, Pyrénées-Atlantiques, France 20世紀最大のトランペットソリスト。彼の登場により、クラシック界ではそれまでソロ楽器としての地位が微妙だったトランペットの評価が一転した。 彼のテレマン・バッハ・ハイドン・フンメルらのトランペット協奏曲の録音は作品の再評価につながり、多くのトランペット奏者の定番レパートリーとなった。 パリ音楽院卒業の翌年、パリ国際音楽コンクールで優勝。1955年にジュネーヴ国際音楽コンクールにて優勝、1963年にもミュンヘン国際音楽コンクールにて優勝している。 1959年にHenri Selmer Paris社と協力して現代のピッコロトランペットを開発、1985年までアドバイザーとなる。 1985年以降はスペインのStomvi社のアドバイザーとなり、誰もが演奏しやすいEs管やピッコロトランペットを完成させた。 バックボア計測データの比較 |
![]() ![]() ![]() A:24、B:7、C・無印:10、D:76、E:117 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
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