Vincent Bach Trompetenmundstücke 2
 
 Vincent Bachトランペットについての解説を、5つの記事に分けて書いています。こちらのページでは、Vincent Bachのマウスピース2(Bachの意図と現代のズレ)について解説しています。



1 : Vincent Bachのトランペット1
B管180MLを中心に
2 : Vincent Bachのトランペット2
様々なベル・リードパイプとBachが設計した特殊管
3 : Vincent Bachのマウスピース1
ナンバー表記と形状
4 : Vincent Bachのマウスピース2
Bachの意図と現代のズレ
5 : Vincent Bachの生涯と歴史










4 : Vincent Bach Mundstück 2






大きなマウスピースはなぜスロートが拡張されるのか?

 現在の多くのプロクラシックトランペット奏者のマウスピース口径は、Bach 1~1-1/2が大多数を占めています。2を使用する人は少なく、3では小さすぎると言ったイメージがあります。またアマチュアのクラシック奏者でも1-1/2は人気で、それより小さくても2や3を使用する奏者が大多数です。5より小さいものを使用する人はかなり少数派でしょう。

 しかしよくよく調べてみると、プロのクラシックトランペット奏者のマウスピースはBach 1Cでありながら、1C-22-24や1C-24-24、1-1/2C-25-24のようにスロートを22~26に拡張し、バックボアはシンフォニックな24に変更されています。またカップの深さもCを好む人がいる一方でBを好む人も多く、中にはCのリムにBのカップをネジで連結させたものを使用している人もいます。オーケストラの中で大きな音を出すためには大きな口径のマウスピースが必要とは言え、どうして「標準品」にこのような手を加える人の方が多いのでしょうか?




リム口径の対照表

Bach YAMAHA JK Monette
  1D1
1C18C42D2
1-1/4C17C44D3
1-1/2C16C45D4
2C15C4 5
3C14B46E6
5C13C47D7
7C11C48D 
10C9C49D 
10-1/2C 10D8
11C8C4  
17C7C4  
20C5C4  


※ Bach 2Cは通常のCよりややU字のボウル型、Bach 3Cはやや浅い。
※ こちらの対照表はあくまで大まかなものです。各社発表による相当品を参考に作成しました。各社でマウスピースの入り口からどれくらいの距離で計測しているかが異なるため、各社が公表しているマウスピースのリムサイズ計測値は直接比較する事ができません。リムエッジの形状等にも左右されます。




スロート径とドリル番号

Drill Size inch mm 備考
#310.12003.048 
#300.12853.264 
#290.13603.454 
#280.14053.569 
#270.14403.658Bach Standard
#260.14703.734Bach Megatone
#250.14953.797 
#240.15203.861 
#230.15403.912 
#220.15703.988 
#210.15904.039 
#200.16104.089 
#190.16604.216 
#180.16954.305 
#170.17304.394 
#160.17704.496 
#150.18004.572 
#140.18204.623 
#130.18504.699 
#120.18904.801 
#110.19104.851 
#100.19354.915 
#90.19604.978 
#80.19905.055 
#70.20105.105 
#60.20405.182 
#50.20555.220 
#40.20905.309 
#30.21305.410 
#20.22105.613 
#10.22805.791 
A0.23405.944 
B0.23806.045 
C0.24206.147 
D0.24606.248 
E0.25006.350 





Bach登場前、20世紀初頭のスロート

 1900年頃、長管F管トランペットがほぼ絶滅し、B/A管トランペット・B/A管コルネットが主流の時代に変わっていきました。 この頃のマウスピースのスロートは4.3mm~4.6mmが主流でした。 またマウスピースの口径は非常に小さく、現代のBachで7~10-1/2相当にあたります。 20世紀初頭にアメリカのオーケストラで首席奏者を歴任したEdward B. Llewellyn、Gustav Heimのマウスピースはこのような特徴に当てはまっています。 Vincent Bach登場以前のアメリカでは、アメリカで製造されるマウスピースは人気ではありませんでした。 プロが使用していた多くのマウスピースはドイツのシュミット社から輸入されており、アメリカで製造されるマウスピースもシュミット社のコピーだったようです。



※ Edward B. Llewellyn
Born : January 11, 1879 in St. Louis Missouri
Died : Septemberl 25, 1936 in Monahans Texas
1895年から1899年までシカゴ海兵隊バンドで演奏し、その後1900年から1904年まで同バンドのソロトランペット奏者となる。 1908年~1910年ピッツバーグ交響楽団首席奏者、1911年~1912年ミネソタ交響楽団首席奏者、1912年~1933年シカゴ交響楽団首席奏者を歴任。 1933年~1936年はシカゴ交響楽団の人事部長として働く。 Frank Holton Companyシカゴ支店の営業マンとしても勤務しており、多くの楽器を販売した。

※ Gustav Friedrick Heim
Born : May 8, 1879 in Schleusingen Thüringen Germany
Died : October 30, 1933 in New York U.S.A.
ドイツのテューリンゲン州生まれ。1904年にアメリカのセントルイスに移住。 1904年~1905年セントルイス交響楽団首席奏者、 1905年~1907年フィラデルフィア管弦楽団首席奏者を務め、その後ボストン交響楽団に移籍する。 1914年~1919年はボストン交響楽団で首席奏者を務める。 この時、1915年にヨーロッパから亡命してきたVincent Bachがボストン交響楽団に首席奏者として入団し、約1年間演奏を共にしている。 その後1921年~1923年ニューヨークフィルハーモニック協会首席奏者、1923年~1924年クリーブランド管弦楽団首席奏者、 1925年~1928年ニューヨークフィル首席奏者を歴任する。






27スロートは拡張前提のサイズとして作られた

 1922年にニューヨークで創業したVincent Bachは、アメリカで世界に通用するマウスピースを作った最初の人です。 そして創業初期の頃にマウスピースのスロートサイズを3.66mm(#27)と定めました。 これには製造上の理由があるのです。 奏者は自分の好みによって様々なカップサイズ・スロートサイズのマウスピースをオーダーします。 しかし、同一カップサイズに対し多くのスロートバリエーションを在庫として揃えることは、商売としては非効率です。 Bachは奏者が購入後に自分の好みに合わせてスロートサイズを拡張することを前提として、3.66mm(#27)という小さ目のスロートを採用したのです。




20世紀前半のBachマウスピース

 Vincent Bachトランペットマウスピースの標準品品番が、現代のように固定化したのは1970年ごろです。 次の表に示すのは、1922年、1926年、1929年、1938年発行のVincent Bachマウスピースのカタログに載っている品番です。




黎明期のレギュラーサイズマウスピースの品番

1920 Trumpet & Cornet
Star Model ( small cup diameter )
Standard Model ( medium size cup )
Aida Model ( large cup diameter )
1922 6-T, 7-T, 8-T
6-C, 7-C, 8-C

※ TはTrumpet、CはCornetの略
1926 Trumpet & Cornet
2-1/2, 3, 6, 6-1/2, 7, 7C, 8, 9, 10
1929 Trumpet & Cornet
3, 5A,
6, 6 1/2A, 7, 7C, 7A, 8, 8C,
9A, 10, 10C,10 1/2A, 10 3/4A,
11A, 11 1/2A, 12
1938 Trumpet & Cornet
6, 6B, 6C,
7, 7B, 7C, 7BW, 7CW,
8, 8B, 8C,
8-1/2, 8-1/2B,
10-1/2C, 10-1/2CW
11B, 11C, 11DW, 11EW
12C, 12CW
17C1, 17C2
1954 Trumpet & Cornet
Same as 1938




この表から、標準品のマウスピースは当初数字のみで始まり、次にCカップやAカップが登場しながらリム口径のバリエーションが増えていったことが分かります。 また6番よりも大きなリムは殆ど標準品とならなかった事から、当時は1~3のサイズを選ぶ奏者は特注対応であり、6~12のサイズが人気だったことが推測されます。

 黎明期の頃から、Bachは顧客のカスタムオーダーに対応していました。顧客の要望を聞くうちに、オーダーの多い大きさや形状がある程度見えるようになっていったと考えられます。ある時彼はカップの直径ごとにこれらのモデルを再整理し、数字を割り当てることにしたのです。またカップの深さについても使用目的によってアルファベットを割り当てることにしました。

 これらの割り当ては1920年代当初から大きく変更されていないため、リムサイズと型番の等間隔的な法則性は現在においても統一されていません。例えばリム形状が異なる同一の内径に異なる番号がつけられたり、使われていない番号・1/2や1/4等の付け足された番号があったり、隣り合う番号に対する内径の数値の変化が不規則だったりするのです。また同じCカップでも3Cはカップ深さが浅いのに2-3/4Cは極端に深かったり、Wリムとそうでないもので深さが著しく異なったり、同じリム番号でもカップ深さによって内径が異なったり、リム番号によっては用意されていないカップが存在したりするのです。

 一方でマウスピース全体のバランスはかなり調整されていると言ってよいでしょう。リム形状、リム内径、カップ形状、カップ容量、スロート径、バックボア形状等、1つのマウスピースにおける変数は非常に多いのです。「完成された」マウスピースを適当に改造し、これらの変数要因の1つを変更すると、マウスピース全体の特性バランスが変わってしまい、そのマウスピースを使用した演奏方法に劇的な変化が生じてしまいます。またマウスピース全体の長さや、楽器に挿入した時のマウスピース先端とリードパイプ先端の隙間の量によって、同じ楽器でも演奏のしやすさが大きく異なることに彼は気付いていました。数年間の試行錯誤の経験で、Bachはそれぞれのマウスピースを最適と思われる形に仕上げていたのです。

 数値的に均一な間隔の法則性はないものの、カップサイズやリムサイズに理論的に番号や記号をつけた「マウスピースのシリーズ化」は、多くの顧客に対しマウスピース選びを明快なものにしました。それまでのマウスピースはアーティストの名前で販売されるのが一般的で、リム口径やカップサイズは全く統一性のない物でした。数値が大きくなればリム内径が小さくなる・アルファベットが前になればカップは深くなる、という明快な考えは、現在のBachマウスピースに対する多くの人の認識であり、概ねそのイメージでマウスピース選びをしても大きな間違いをすることはないのです。




6, 7, 8

 黎明期の1922年のカタログに載っているトランペットのマウスピースは6-T、7-T、8-Tでした(TはTrumpetの略。コルネットはC。)。 創業当時は顧客の要望に合わせてマウスピースをカスタムオーダーしていたので、「標準品」としてカタログに載っているものは 特に要望の多かったリムの大きさ・Bachが理想としたリムの大きさということが分かります。

 ここで着目したいのは、6・7・8はリム口径が同一であり、リム形状が異なるという点です。 6はオーケストラ奏者用、7と8は軽音楽奏者用のリム形状をしているのです。 Bachはダンスバンドやサーカスでの演奏経験と、北米オーケストラでの現場経験から、 口径やカップ深さに変化をつけるのではなく、カップ口径と深さが適切であればジャンルを問わず演奏できると考えていました。 そして、唇と接触するリムの形状こそが最も大切で、どのような発音がしやすいかのか・高い音が出やすいか、などの要素を決定していると考えたのです。 6のリムは癖のない音の入りで、輪郭が美しくはっきりとした音作りが可能です。 一方で7と8は様々な発音や表現ができて、口径を最大限に使う事ができます。 1920年代や30年代は、オーケストラよりも軽音楽の方がより多彩な吹き方を要求された時代だったのです。



C, 無印

 1926年になると、7のリムにCカップが登場しました。 新たに登場したCカップは、オーケストラで7番を使用したい奏者の為に新たに開発されたカップ形状です。 軽音楽でのsoloを演奏を想定して作られた無印のカップ形状とは差別化され、浅いUカップが採用されましたが、バックボア形状は同一のものが採用されました。 1920年代の北米のオーケストラはB管を使用していました。稀に小型のC管やD管を使用する事がありましたが、 Bachが楽器のレンタルサービスを行うぐらい使用する機会は少なかったようです。 CカップはB管と共に、小型のC管やD管でも使用できる深さとして考案されました。 Bachの顧客であったボストンやニューヨークのオーケストラはBessonのB管をしていましたから、 現在のB管よりもはるかに明るい音色を奏でていたことが容易に推測できます。

 現在Cカップは「中庸」というイメージが定着していますが、作られた当初は明るくかなりはっきりした音を想定されて開発されていたのです。 20世紀前半の北米のオーケストラのトランペットは、柔らかく丸いコルネットの音とは差別化された、明るい音色が求められていました。 マウスピースの深さが持つ現在のイメージとは大きくかけ離れていることが分かります。



9, 10

 9・10のリムは6~8より小ぶりな口径で、20世紀前半の小型C管を演奏していたフランス人向けに作られました。 ナチュラル管から脱却した近代トランペットは、19世紀には短いC管やD管も製作されていましたが、 オーケストラで用いられるトランペットはあくまでB管が主流でした。 しかしフランスではB管ではなく小型のC管のピストントランペットが主に用いられていたのです。 20世紀前半の北米でもB管を使う奏者が大半を占めていましたが、フランス系の奏者はC管を使用していました。 モーリス・アンドレ登場以前までは、MLボアのC管に9Cや10-1/2Cで演奏するというスタイルがフランスでは一般的となり、長く愛用されたリムナンバーのようです。



A, 11, 12

 工場がBronxに移転した後の1929年には、10より小さいリムや深さのあるAカップが登場しました。 また7・8・10には無印とCカップが選択できるようになり、数字とアルファベットでマウスピースの形状が表現され始めます。 Aカップはメロディーを優しい音で美しく吹く為に作られた深いカップです。 このカップには開きの早いバックボアが採用され、ハッキリとしたCカップに対して豊かな音色の演奏を可能にしました。

 11のリムは、19世紀のフランスの楽器の為に作られたリムです。 19世紀フランスの作曲家は、トランペット2本・コルネット2本、計4人の奏者を必要とする曲を書きました。 ドリーブのバレエ『シルヴィア』『コッペリア』等が代表的な例です。 これらの楽曲を演奏する際に、昔のフランスで使われていた楽器に合うことをコンセプトに、11のリムは作られました。 小ぶりな口径で歯切れの良い音が鳴り、Aカップはコルネット、Cカップは小型のC管での演奏が想定されています。 19世紀のフランスではアーバンやフランカン等の名手が生まれ、それぞれの流派を確立していきました。 現在このリムに合う楽器が生産されておらず、マウスピースとの相性が最適な楽器を求めるならば、 1960年代以前に製造されたCourtois、Selmer、Couesnon等の楽器を探さなければなりません。 同様に12のリムは、ニニロッソに代表されるイタリアでの奏法の流派で演奏する人に好まれたリムです。 当時のイタリアではKINGやSelmerのB管を使用していました。 現在の楽器ではBengeやMボア38ベルのBachと相性が良く、一部の北米西海岸の奏者に好まれています。

 11・12のリムは1950年代までは定番のリムナンバーでしたが、その後廃れて行ってしまい、現在Bachの11や12のリムを使用する奏者はかなりの少数派となっています。 フランスやイタリアの奏者の奏法は、北米のクラシックや軽音楽のものと明らかに異なっており、 1970年代までは明確にジャンル分けされていましたが、その後時代と共に消えていきました。



※ Jean-Baptiste Arban
Born : February 28, 1825 in Lyon France
Died : April 8, 1889 in Paris France
フランスのコルネット奏者、教師、作曲家。教則本アーバン著者。 1841年から1845年までパリ音楽院でコルネットを学び、 1857年にパリのエコール・ミリテールでサクソルンの教師となる。 1864年に世界的に有名な教則本『アーバンによるピストン式コルネットとサクソルンによる完全な大奏法』を出版。 1869年にパリ音楽院のコルネット ・ア・ピストンの教授となる。 ベルリオーズの幻想交響曲第2楽章のA管コルネット独奏は、アーバンのために後に書き加えられたものである。

※ Merri Jean Baptiste Franquin
Born : October 19, 1848 in Lançon Bouches-du-Rhône France
Died : January 22, 1934 in Paris France
フランスのトランペット奏者。23歳でパリ国立音楽院に入学し、Arbanのクラスに在籍。 在学中に長管F管トランペットをC管トランペットに置き換える。 これにより、1870年代頃よりフランスではC管トランペットが広まっていった。 1894年から1925年までパリ国立音楽院のトランペット教師。 弟子にGeorges Mager (1919年から1950年までボストン交響楽団の首席トランペット奏者。1940年代にBachに依頼し、B管のような音が鳴る大型のC管を製作させる。Adolph Hersethの師。) やEugène Foveau(1925年から1947年までパリ国立音楽院のコルネットの教師。Pierre Thibaudの師。)がいる。

Raffaele Celeste 'Nini' Rosso
Born : September 19, 1926 in Torino Italy
Died : October 5, 1994 in Rome Italy
20世紀イタリアで最も良く知られたジャズトランペット奏者。 1960年代に多くのレコードをリリース。「夜空のトランペット (Il silenzio)」は100万枚以上の売り上げを記録する。






B

 Bカップは軍楽隊バンドでの使用を想定されて作られています。 Cカップよりもやや深く、19世紀~20世紀初頭のヨーロッパで使用されていたロータリー式トランペットのマウスピースをもとに作られました。 この時代のオーストリアでは、広がりが早く総容積の小さなバックボアが用いられていたので、Bカップのバックボアも同様に広がりは早いものの、 細いバックボア形状が採用されました。

※ ロータリートランペットのマウスピースが太いバックボアを採用したのは20世紀後半以降。



D, E

 ストラヴィンスキーが1913年に作曲したバレエ『春の祭典』や、ラヴェルが1928年に作曲したボレロでは、 ピッコロトランペットのパート譜がD管で書かれています。 1940年代にBachが大型のC管を開発するまで、C管が小型の楽器であったように、D管もまた小型のトランペットとして19世紀終盤~20世紀初頭にかけて用いられていました。 当時のD管は現在のピッコロトランペットのような楽器という認識があったようです。 ベル口径も100mm程度と小さく、オーケストラで広く用いられていたB管とは音色や操作性の点で差別化されていました。 これらの短い楽器の製造は、Bachも1920年代に既に行っていました。そしてどの様なマウスピースが楽器に合うかもBachは考えだしました。 短く小型の楽器で歯切れよく演奏するために、Cカップよりも浅いカップが用い、新しい細目のバックボアを採用したマウスピースを作り出したのです。 この新しい浅いカップはDカップ・Eカップと呼ばれ、小型のD管で用いられる事を前提としています。

※ 当時短管のEs管やF管、High B管のピッコロトランペットも存在していましたが、Maurice Andréの登場以前は普及していませんでした。





W

 リムの口にあたる部分を分厚くし、唇の負担を軽減するWリムは1930年代には標準モデルとして登場しました。 11番のリムに採用されているDカップとEカップはWリムとなっており、高い音を演奏する際に楽器にマウスピースを押し付けてしまい、体力を消耗する事を防いでいます。 また、その独特の口当たりでノーマルリムとは異なった発音が可能な事から、他の品番にもいくつか採用されています。





17C1, 17C2

 1938年のカタログでは、軽音楽でハイトーンの連続演奏が要求される奏者の為の17C1(Hot trumpet works)と更に浅い17C2がレギュラー品番となっています。 17C1は現代の10-3/4CWにあたり、ジャズトランペット奏者のClifford Brownが使用していた事で有名な品番です。17C2は現在でいう10-3/4EWにあたります。 これらの小さなマウスピースは、まだBessonのデザインに近かったNew York期のBachトランペットに使用され、現在とは異なる音色を奏でていたのでしょう。

※ Clifford Brown
Born:October 30, 1930 in Wilmington, Delaware, U.S.
Died:June 26, 1956 in Bedford, Pennsylvania, U.S.
アメリカのジャズトランペット奏者。25歳の時に自動車事故で亡くなる。






リム形状の最適化

 Bachのマウスピースの素晴らしかった点は、各マウスピースの使用用途や使用されている楽器に応じて最適なリム形状を探った点です。 例えば7と7Aと7Cでは深さが異なりますが、リムの形状も異なる為、口に当てた時にそれぞれ異なる印象を持ちます。 最初期の話に戻りますが、黎明期の標準品マウスピースの品番は6・7・8であり、口径は同じですがリム形状が異なるので多彩な表現が可能となるのです。 リムの絶妙な形状は数値化する事はできません。カタログには書き表せないマウスピースの秘密と特徴がそこにあるのです。 これは現在のマウスピースにも引き継がれており、今販売されているBachのマウスピースのリム形状は数十種類に及びます。





奏者の使用用途とのズレ

 以上の結果から、Bachが想定していた各マウスピースの使用用途は以下のようにまとめられます。




リム

6 オーケストラ
7 軽音楽
8 軽音楽
9 フランス式奏法で小型のC管を使う
10 フランス式奏法で小型のC管を使う
11 フランス式奏法で19世紀の楽器を使う
Cornet 2本、Trumpet 2本の編成
A : Cornet用、C : C管トランペット用
12 イタリア式奏法で演奏する


カップ

- 軽音楽でのsolo
A 旋律を優しい音で美しく吹く
B 軍楽隊
C オーケストラ
(B管と、小型のC管・D管用)
D 小型のD管
E 小型のD管




 しかし1930年代になると、奏者たちはBachの思っていた使用用途とは異なる方向性でマウスピースを使い始めます。 まずB管を演奏しているオーケストラ奏者の中で、浅いCカップを避け、Bカップを使い始める者が出始めました。 また10番や11番を使ってオーケストラと軽音楽を兼業する人も出始めました。 更にハイノートを連続で演奏しなければならない軽音楽の奏者が、本来小型のD管用であったDカップやEカップを使い始めたのです。




オーケストラでBカップを使う~Bessonデザインからの脱却とNew York 7

 上記の通り、BachはCカップをオーケストラに使う事を想定していました。 1920年代のBachがイメージしていたのは、トランペットとコルネットの役割が明確に分かれた19世紀の音でした。 「コルネットは柔らかい音」「トランペットは芯のある、明るくはっきりした音」というもので、 Bachが入団していた20世紀初頭のボストン・ニューヨークのオーケストラも、このような音を奏でていました。 しかし1930年代になると、北米オーケストラに求められる音は「より大きく、豊かな音」に変化しました。 この流れから、Cカップの明るくはっきりした音に限界を感じた奏者たちは、やや深い軍楽隊用のBカップを使うようになったのです。 音色のスタイルの変化はBachの製作する楽器にも変化をもたらしました。 創業当初、1885年以降のBessonのデザインをもとに作られていたBachトランペットは、より大きな音を出すためにチューニングクルークのU字管の幅を広くしたデザインになりました。 また新たに開発された7パイプや7ベルを搭載し、大きなLボアを採用したトランペットが作られるようになりました(現在復刻されているNew York 7)。

 オーケストラでBカップを使う事が広まっていくにしたがって、Bachは管の長さとカップ容積を再考し、以下のようにカタログに表記し始めました。




カップ

- 中庸なカップでB管用
B 中庸なカップでB管用
C やや浅いカップでC管用
D 浅いカップでD管用
E とても浅いカップでE管用


※ Vincent Bach 1938年のカタログより。E管は当時存在しない。Es管、もしくはとても浅い事を表現したと思われる。




小さなリム口径で演奏を容易にする

 創業当初の6、7、8のリム口径が同一だった事から、初期のBachの考えは 「大きなカップだからオーケストラ向けという訳ではない、小さなカップだから軽音楽・ジャズ向けという訳ではない。」 「ジャンルの違いはリム形状で差をつける。リム形状で音質や高い音が出やすいかどうかが決まる。」 というものでした。 しかし小さなリムは演奏に体力を要さず、複雑なパッセージの演奏も容易にします。 この事実からフランス式の小型C管の為に作られた9番以降の小さなリムを、様々なジャンルのB管で使用する奏者が現れました。 このことから、1938年に発行されたVincent Bachのマウスピースカタログには、次のような説明が用いられています。




リム

10 オーケストラ・軽音楽での素早いパッセージやハイトーンパフォーマンスまでできるオールラウンド
11 女性用。Eは高い音のパフォーマンスをする人向け
12 稲妻のようなパフォーマンスが可能


※ Vincent Bach 1938年のカタログより。




浅いカップで高い音を出す

 本来の浅いカップは304ベルや311ベルを搭載した小型のD管用に作られたものであり、楽器自体も現代のような大きな音なるものではありませんでした。 DカップやEカップのリムは小型D管トランペットの為のリム形状をしており、B管を想定したものと明らかに異なります。 ハイトーン用のマウスピースとして17C1や17C2が用意されていましたが、高い音を楽に出したい奏者たちはそれらを使わず短管用の浅いカップをB管に挿して使い始めたのです。 これは、「ジャズや軽音楽で極端に高い音を出す奏者でも、極端に浅いカップは使わない。」とするBachの考えと異なっており、 B管で浅いカップが使用される事は想定外でした。

 これらから、リム形状を重視していたBachに対し、顧客はリム口径やカップの深さでマウスピースを選択する流れができた、という事ができます。 1938年のBachマウスピースのカタログでは管の長さによってカップ容積が分けられていましたが、 次第に様々な口径・深さに色々なジャンルを想定したリム形状が混在しはじめました。




スロートの縮小化~1950年頃の変化

 20世紀前半から中盤、アメリカのオーケストラの首席奏者はどのようなマウスピースを使っていたのでしょう。 ニューヨーク時代のHarry GlanzはBach 6Cを使っていたようです。 Adolph HersethはBach 7Bを使ってシカゴ交響楽団の首席トランペット奏者に合格しました。 これらは依然として20世紀末頃のオーケストラ奏者のリムサイズと比べて小さなものです。 一方、1950年代以降になると、トランペットマウスピースのスロートは小さなものが主流になり始めました。 オーケストラ奏者の場合は4mm~4.3mm、ジャズ奏者の場合は3.8mm~4.1mmが一般的だったようです。



Harry Glantz
Born : January 1, 1896 in Ukraine
Died : Desember 18, 1982 in Bay Harbor, Florida U.S.A.
5歳の時にアメリカに移住する。幼少よりヴァイオリンとチェロを始めるが、トランペットに転向した。 Max Schlossberg、Christian Rodenkirchen、Gustav Heimら名だたる奏者からトランペットを師事。 1915年に19歳でフィラデルフィア管弦楽団首席奏者となり、1917年まで演奏をする。 その後、1919~22年ニューヨーク交響楽団首席奏者、1922年~1923年サンフランシスコ交響楽団首席奏者、 1923年~28ニューヨークフィルハーモニック協会首席奏者、1928年~1942年ニューヨークフィル首席奏者、 1942年~1954年にはトスカニーニの指揮するNBC交響楽団首席奏者を歴任する。 晩年はマイアミ大学で教鞭を執り、 弟子にフィラデルフィア交響楽団で1975年から1995年まで首席奏者を務めたFrank John Kaderabekがいる。




ハーセスの自動車事故~1950年頃の変化

 50 年代に、演奏家たちは内径の大きいマウスピースを使い始めました。 1950年代初め、シカゴ交響楽団首席奏者のAdolph Hersethは自動車事故にあいました。 この時唇の傷にマウスピースが当たらないよう、7Bから1Bにマウスピースを変更しています。 この事件が理由か定かではありませんが、1950年代にボストンやニューヨークのオーケストラ奏者達は、大きなマウスピースを使用するようになったようです。 一方ジャズや軽音楽の奏者のマウスピースに変化はありませんでした。



Adolph Herseth
Born : July 25, 1921 in Lake Park, Minesota U.S.A.
Died : April 13, 2013 in Oak Park, Illinois U.S.A.
1948年から2001年まで、53年間シカゴ交響楽団の首席トランペット奏者に君臨する。 ルーサー大学で数学の学位を取得した後、 第二次世界大戦中に米海軍で音楽家として従軍。戦後ニューイングランド音楽院で ボストン交響楽団のトランペット奏者であるMarcel LaFosseとGeorges Magerに師事。 この二人はフランス系アメリカ人であり、C管トランペットを使用していたため、彼もその影響を受けてC管トランペットを使い始める。 1948年、27歳の時にシカゴ交響楽団の首席トランペット奏者に就任。 彼ががボストンからシカゴへ発つ直前、Vincent BachからC管(229ベル・7パイプ・Lボア・B管用のスライド付)を託される。 以後53年間、80歳まで首席トランペット奏者を務めた。




大口径マウスピースの標準品化

 1961年10月2日、Bachは自身の会社をSelmerに売却しました。 彼はコンサルタントとなって会社に残り、マウスピース形状の最後の再整理とシリーズ化を行います。 各品番のマスター形状を定め、品番の再整理を行い、大きい順・深い順から数字とアルファベットで並べたのです。

 6番以上の標準品に関しては、常に完璧なデザインを求めて形状の微調整が何十年も行われていました。 一方で大きなサイズのマウスピースに関しては特注対応でしか作らなかったので、オーダーした顧客の要望によって様々な形状が存在していました。 クラシック奏者の間で需要のあった5番に関しては、1920年代の5Aや特注の5Bを元に再調整され、5A・5B・5Cの3つの深さのカップが標準品に採用されています。 しかし1~3に関しては、統一性の無い特注品番をサンプルに短期間のうちに最終形状が確定されました。 現在の1~3の標準品は「ある個体」のコピー、ある形状の拡大版、または複数の個体を参考に作られたものなのです。 これは2Cのカップ形状と3Cのカップ形状がまるで異なることからもわかります。 また他のメーカーで「Mt.Vernon時代のBachを参考に」「20世紀中盤ににヨーロッパに輸入されたBachを参考に」と紹介されているマウスピースに関しては、 1-1/2C等の品番はその時に手元にあった「ある個体」を参考に作られた、と解釈すべきです。

 これらの大きなサイズのマウスピースの標準品デザインを確定させる際、6以上のサイズのようにリム形状やカップ形状、 バックボアなどのつきつめた開発がされたわけではありません。 小さなサイズのマウスピースは、リム形状・カップ形状・内径・バックボア等、何十年もの試行錯誤と微調整を経て最終形状に至っています。 一方で大きなサイズのマウスピースは、長期間に渡る形状の吟味はされていないのです。 ボストンやニューヨークでは大きなリムが好まれる時代へと変化しつつありましたが、 大きなリムサイズのマウスピースのニーズは1960年代はまだそれほど多くなかったので、 大きなマウスピースの形状を短期間で決めてしまうことを、さほど大きな問題と捉える必要もないと判断されてしまったのかもしれません。 1961年の時点でアメリカのオーケストラ奏者達は、B管に5~8のリムの組み合わせを好んで使用している人が多数派だったようです。

 大型のリム口径に関しては、1系・2系・3系が存在し、4番はありません。 3つの口径はそれぞれカップ形状が異なります。 1系は標準的なカップでCカップに派生品番が存在し、3系はやや浅めで派生品番はありません。 1と3には各深さのカップが準備されていますが、2にはありません。 2系は独特なUカップでCと無印しかなく、Cカップにのみ派生品番が存在します。 そしてこれらのマウスピースには、いくつかのマウスピース間で同一リム形状が存在します。 リム形状に着目することで、あるマウスピースを元にカップ形状を変更したり、リム口径を変更したりした、と考えることができます。




1C 1CW 3C

 1Cと3Cはリム形状が同じです。しかし1Cは6Cや7Cと同じく中庸な深さのカップに対し、3Cはかなり浅いカップが採用されています。 1CWは1Cとカップ形状はほぼ同じですが、リム口径は僅かに1CWの方が大きくなっています。




3D 3E 3F

 これらは同一リム形状で、深さのみが異なります。 これらのカップ形状は3Cを更に浅くした皿状で、7EWや10-1/2EWのようにある程度深さのあるUカップではありません。 3Dは皿状のカップで、10-1/2Eのカップ形状とよく似ています(10-1/2Eと10-1/2EWのカップ形状は大きく異なります)。 3Eは10-3/4EW(旧品番17C2)のカップ形状によく似ています。 3Fは3Eよりも更に浅くなります。 3D~3Fはクラシック奏者向きというよりは、ある程度大きなリムでハイノートを鳴らす必要がある人に需要がある形状です。




1B 3B

 この2つはリム形状が異なりますが、6Bや7Bと同じくやや深いカップが採用されています。 クラシック奏者向きのマウスピースと言えるでしょう。




1B 1D 1E

 これらは同一リム形状で、深さのみが異なります。 1Dは皿状で3Dとカップ形状が似ており、1Eと3Eも同様にカップ形状がよく似ています。 ただし1系の方がリム口径が大きいため、カップ深さもやや深くなっています。 1B・1Cはクラシック奏者向きと言えますが、1D・1Eはハイノートを演奏する人向けと言えそうです。




1-1/4C 1-1/2C

 これらは同一リム形状で、リム口径のみが異なります。 同じ中庸なCカップですが1Cに比べ1-1/4C、1-1/2Cに比べわずかに浅い作りになっています。




1-1/2B

 1-1/2Bは1Bと同じくやや深いカップが採用されています。 しかし両マウスピースのリム形状は異なります。 1-1/4C、1-1/2C、1-1/2Bの3つはクラシック奏者に好まれる形状のマウスピースと言えます。




1 1X

 1XはMt.Vernon時代の1です。なぜこのような事になったのかは後述します。 1の方がリム口径が大きく、両者とも深いUカップです。




1 2 3

 これらのマウスピースは深いUカップを特徴としています。 しかしカップ形状は3つとも異なります。 2のカップは最も深く、リムからカップの始まりにかけてほぼ垂直に削られています。 1は3つの中で最も浅く、非常に大きな口径とカップを持つマウスピースで有名です。。 リム形状はどれも異なる形をしており、2は非常に平らな形状をしています。




2 2C 2-1/2C 2-3/4C

 2系のマウスピースはどれも独特なカップ形状をしています。 通常のCカップを茶碗型とすると、2系はリムからカップの始まりにかけてほぼ垂直に削られているためボウル・半球型に近いと言えます。 特に2-3/4Cはほぼ半球といっていいでしょう。 深さは2Cと6Cはほぼ同じくらいです。 そして2C、2-1/2C、2-3/4C、2の順でカップが深くなります。 またリム形状は2Cと2-1/2Cはよく似ていますが、4つとも異なります。




3CW

 3Cと3CWは全く異なるマウスピースです。 浅めの3Cに対し、3CWは漏斗状で3Bとカップ深さがほぼ同じです。 実質3Bのワイドリムと考えるべきでしょう。 リム口径は1-1/2Cに近く、3系にしては大きなリムが特徴です。




5A、5B、5C

 5Cは大きな口径を持つリムで、3C、1-1/2Cに近い大きさです。 またカップ形状も1-1/2Cに似ています。 5Bは6Bや7Bとほぼ同じカップ形状、5Aは3や7とほぼ同じ漏斗型のカップ形状で、 5C、5B、5Aの順に深くなります。 リム形状は3つとも異なりますが、5Aと5Bのリム形状はよく似ています。




1~5のマウスピースラインナップ

Rim   A B C D E
1
X
 
CW
1.25          
1.5        
2        
2.5          
2.75          
3
CW
 
F
5      




工場移転とリム口径の大型化

 1963年、SelmerはElkhartにあったBuescher工場を買収し、New York Mt.Vernonからトランペットの製造拠点の移動が始まりました。 この工場は大変設備が古く、更にSelmerは1970年に同ElkhartのIndustrial ParkwayにあるC.G.Connの工場を買収します。 1975年頃までにすべての金管楽器製造はIndustrial Parkway旧Conn工場に移転します。 この時マウスピースのリム口径が変更されました。 それまでマウスピースの外径は26.8mmだったのが、27.4mmに変更されたのです。 これにより、マウスピースの内径も昔より大きくなってしまったのです。 Bach社の最も大きなマウスピースである「 Bach 1 」の内径もかなり大きくなり、 それまでの顧客を逃さないために昔( Mt.Vernon )の時代のBach 1を1Xという品番に名称変更し、販売を続けたようです。





Adolph Hersethと大口径マウスピース

 Adolph Hersethがシカゴ交響楽団でC管を使い始めたのをきっかけに、 20世紀後半にC管トランペットはアメリカのオーケストラに浸透していきました。 同時に大きなのサイズのマウスピースとの組み合わせから生み出される強力なサウンドに多くのオーケストラ奏者は魅了され、 Bachトランペットがアメリカのクラシック界を制覇した1970年代以降は1~3のマウスピースを使う奏者が増えていきました。 6番のリムを愛用しているシカゴ交響楽団のJohn Hagstromのような奏者は、現在かなりの少数派と言えます。

 日本でも1980年代~1990年代に大きなマウスピースを好む流れができたため、現在でも多くの人が1~3のリムを使用しています。 1C・1-1/4C・1-1/2Cなどはクラシックのプロ奏者の定番マウスピースとなっています。 一方で、多くのアマチュア奏者の場合1・1X・1B・1Cなどは大きすぎる・演奏しづらいと感じます。 これらの大きなマウスピースは相当唇を鍛えている奏者でないと、オーケストラで使いこなすのは難しいのです。 大きなリムを好むアマチュア奏者は、一回り小さい1-1/4Cや1-1/2Bを選択することが多くなりました。 そして、マウスピース口径の大型化に伴って、スロート径拡大やバックボアの24への変更はプロ・アマ問わず有名な追加工改造となったのです。 この流れの中で、5~8程度の大きさのマウスピースを使うプロ・アマチュアオーケストラ奏者はかなり少数派となり、 1-1/2のサイズが大きいと感じる奏者も2Cか3B程度のマウスピースを使用するようになりました。






大口径の弊害

 Bach引退後のマウスピースの大口径化は、Bachが想定していなかった問題を起こしました。 無理に自分にとって大きすぎるマウスピースを使うことで、音が開き、タンギングに破裂音が混ざってしまいます。 1Cや1-1/4Cを使用して美しい音が出せる人は遥かに少数なのです。 また体力を奪い、マウスピース内での正しいアンブシュアを崩れさせ、音の狙いを不正確にします。 標準品の1~3のリム形状はBach本人が製作したものではないという事も、発音が崩れる原因の一つかもしれません。 これらの大きなリムは27スロートで販売された為、スロート拡張加工を思いつかなかった奏者の多くにとってはリムが大きいのにスロートが小さくバックボアも細い、 バランスの悪いマウスピースとなりました。





バイト先端の磨耗と個体差

 マウスピースの生産は旋盤に棒状の真鍮をセットして、回転させながらバイト(高速回転する加工物に近づけて削るための刃)で削っていきます。 当然バイトの先端は高音になり、僅かながら熱変形し、磨耗していきます。 長期間バイトを変えないと、徐々に先端の尖りが丸くなると共に磨耗していきます。 これにより、時期によってマウスピースのリム口径等が微妙に変化してしまう事となりました。 具体的な年代と傾向は不明ですが、個体差が生じてしまうことは避けられません。 Selmer社がコンピュータ制御の完全NC旋盤を生産現場に投入したのは1990年代で、それ以前は手作業で旋盤を動かしていたと思われます。 これらの要因から生じる個体差は、マウスピースの形状の認識を更に複雑にさせてしまいました。 ある時期のマウスピースは、別の時期のそれより小さな品番のマウスピースよりも小さいという事態になってしまったのです。





スロートを拡張すべきか?

 冒頭の話に戻りますが、1900年頃のトランペットのスロートは4.3mm~4.6mmが一般的でした。 1950年代では4.0mm~4.3mm程度です。 これらは現在市販されているBachマウスピースの27スロート( 3.66mm )に比べかなり大きなスロートです。 そして27スロートは拡張前提として意図的に小さな径のものが用いられています。 しかし、現代多くの奏者はスロートを拡大しているでしょうか? プロオーケストラの奏者で24スロート( 3.86mm )程度に拡張して使用している例はありますが、 アマチュア奏者でスロートを追加工する人はかなりの少数派と言えます。

 この事実から、2つのことが推測できます。 1つ目は、多くのアマチュア奏者は窮屈なことに気付かず27スロートを使用している可能性があるという点です。 2つ目は、27スロートによる奏法が一般的となり、20世紀前半~半ばと事情が変わってきている可能性があるという点です。

 もし仮に1つ目の推測が多くの奏者に当てはまるならば、スロート拡張・又はシンフォニックモデルのマウスピースを試して見るべきでしょう。 一般的に、スロートを拡張するとより多くの息を楽器に送り込むことができます。 そうすることによって、「きつい音色」に変わってしまう音量の限界点が上がります。 厚く芯のあるシンフォニックな音を、より大きな音で演奏できるようになるという訳です。 しかし、自分の奏法に合わない程にスロートが大きすぎると、倍音が欠けて音に焦点や芯がなくなってしまいます。 また体力の消耗が早まり、音域もせまくなってしまいます。

 道具の変化は、奏者に「より吹きやすい」「より音が良い」という二つの感覚をもたらします。 スロートを段階ずつ拡張した場合、最初のうちは両方のメリットを得られるでしょう。 しかしあるところから2つの感覚は互いにトレードオフに変わります。 この時、そこで辞めるのか、どの段階まで吹きやすさを犠牲にして音の良さを求めるか、という問題に対し、自分なりの答えを見つけなければいけません。






バックボアの拡張を行うべきか?

 1~3の大口径マウスピースはスロートとバックボアの拡張等について考慮されること無く標準品形状が決定されました。 しかしもともと27スロート( 3.66mm )は拡張前提の細いものです。 またバックボアは6~12のマウスピースのために、1920年代~1930年代頃までに決定されたものです。 現代においても、Bachのマウスピースのバックボアは1920年代~1930年代頃のものが採用されていると考えて良いでしょう。 1980年代以降、Monette等のメーカーでは非常に太いバックボアのマウスピースが生産されて始めました。

 一方1960年代~70年代、既に大口径のマウスピースが27スロート・10バックボアや7バックボアと相性が良くない事に気付いていた会社もありました。 SchilkeやGiardinelliでは拡張スロートと共に、太いバックボア形状について研究されていたのです。 しかしこの2社はシンフォニックな音を求める奏者が好むメーカーでは無かった為、クラシック奏者からはあまり注目されませんでした。 1~3のリムについては、ベストなスロートとバックボアの答えは出ていません。 多くのクラシック奏者はスロートを26~22に拡張し、24バックボアを選択しています。

 2018年にBachからシンフォニックモデルと称し、1C・1-1/4C・1-1/2Cのリムに26~22のスロート、24バックボアのマウスピースが標準品として発売されています。 このシンフォニックモデルは後に2Cや3Cにも追加されました。 「太いバックボアは豊かな音が出る」と言われますが、音量にも影響します。 24バックボアは10バックボアや7バックボアよりも容積が大きい分、大きな音が出しやすいのです。 特注対応にはなりますが、5Cや6Cを26スロート( 3.71mm )に1段階のみ拡張し、24バックボアにするという組み合わせも、悪くない選択肢と言えそうです。 また現在MonetteやBreslmairから発売されているマウスピースは、Bachの24バックボアよりもはるかに太く広がりの早い形状となっています。




Bach シンフォニックモデルマウスピース

リム スロート バックボア
3C 22 ~ 26 24
2C
1-1/2C
1-1/4C
1C




敢えて大口径使うべきか?

 アマチュア奏者で1Bや1C(22~24スロートに拡張し、24バックボア)を使いこなせている奏者は少ないでしょう。 実際の所1-1/2C程度に落ち着いている奏者は多いです。 そしてよくよく音を聞いてみると、マウスピースが大きすぎて音色が開いてしまっていることがあります。 更に口径を小さくする場合、3Cは浅すぎるとして、3Bや5B・5C、または6B・6C程度が選択肢に上がります。 小さなマウスピースは音が開かず、中心に芯を集めた密度の濃い音色を作り上げ、丁度良い音量を密度のある良い音色で演奏するのに適しています。 また体力の消耗も緩やかなため、チャイコフスキーの交響曲やラヴェル等の作品でアシスタントを使わず一人で吹ききる時に重宝できます。 プロオーケストラ奏者の間では大きな口径のリムを使用している奏者が多数ですが、 6Cを使っているシカゴ交響楽団のジョン・ハグストロムのように、 小さな口径のリムを使用している奏者もいるのです。 またBach本人が6番のリムを愛用していたことは有名です。





特殊品番

 現在のマウスピース品番を見ると、4番、13~16番、19番が欠番しており、カップ形状も規則的なものと例外的なものが混在しています。 17系・18系・20系のマウスピースは非常に小さなリムですが、深さは7系と変わりません。 以下に例外的なマウスピース品番を紹介します。




6BM

 6BMは6Bのマウスピースに26スロート、24バックボアの組み合わせの標準品です。 元祖シンフォニックモデルと言っていいでしょう。 オーケストラ奏者だけでなく、チェット・ベイカーも愛用していた品番です。




皿型と洗面器型

 DやEの浅いマウスピースのカップには、大まかに分けて皿型と洗面器型のカップが存在します。 皿型は全体的に浅く、B管トランペットを使って軽音楽でハイノートを演奏することを想定したカップです。 一方洗面器型はリムのすぐ内側で急に深くなり、底のあたりはなだらかなカップ形状です。 皿型に比べてそれなりに深さがあり、クラシックで短管を演奏することを想定したカップです。




10-3/4CW 10-3/4EW

 これらはNew York時代の17C1・17C2にあたります。 10-3/4系はこのワイドリムの2品番しかありません。 どちらも軽音楽でハイノートを鳴らす前提で設計されています。




短管用マウスピース

 ピッコロトランペットの定番マウスピースとして7EWは有名です。 7D・7DW・7E・7EW・10-1/2D・10-1/2DW・10-1/2EW・11D・11DWはカップ形状がほとんど変わりません。 これらはリム口径の大小と、ワイドリムかそうでないかの違いになります。




10-1/2E

 10-1/2EWと10-1/2Eはカップ形状が大きく異なります。 10-1/2EWは洗面器型で短管用のカップ形状なのに対し、10-1/2Eは浅い楕円形です。 深さは3Eと同程度で、ハイノートが鳴らしやすいカップです。 またこのマウスピースは7Cに近いリム形状をしています。




11EW

 11EWは浅いラグビーボール型のカップのマウスピースです。10-1/2Eよりは深い形状をしています。 他の11系マウスピースである11A・11B・11C・11D・11DWは7系をそのまま小さくしたような形状で、 特に11D・11DWは7D・7DWと同じく短管用のカップ形状をしています。 しかし11Eという品番はなく11EWのみが存在し、そのカップ形状は楕円型です。




12CW

 12CWは皿型のカップ形状としては最小リムのマウスピースです。 10-3/4EWよりやや浅く、かなり小さいリム口径のマウスピースです。 他の12系マウスピースである12・12B・12Cは7系をそのまま小さくしたような形状です。






最適の定義とは?

 1961年にBachは会社をSelmerに売却し、1965年頃には設計の第一線から退きました。 しかしこの時期は北米のオーケストラにとって2つの黎明期でもありました。 一つは大口径マウスピースの浸透、もう一つはC管の浸透です。 これらの変化はBach引退後20年以内に北米オーケストラ奏者の間で起きました。 そしてBach本人が最適を追い求めて現役で開発していた時代と比べて、 最適な道具の組み合わせにズレが生じてしまったのです。 このズレを「奏法がや求められる音が時代とともに変化したから、大した問題ではない」と受け止めるか、 「1950年代~1960年代と現代ではマウスピースの口径やスロートが異なるので、楽器も進化すべきだ」と考えるかは、 個人の感性による所かもしれません。




B管

 現在のMLボア・37ベル・25パイプが主流になりはじめたのは1945年以降のことです。 特にMt.Vernonに工場が移転した1953年以降、最もスタンダードな組み合わせとなりました。 その後、1956年にチューニングクルークの幅が広くなり、 1964年12月にチューニング管の抜きしろが1インチから1/2インチに改められた180が誕生しました。 この時代のオーケストラ奏者は、大きなスロート共に5~8リムのマウスピースを使用する者が多かったはずです。 このようなマウスピースに合わせて180ML37/25の組み合わせが選択されていたのが1950年代~1960年代という訳です。 多くの奏者が1~3の大きなリムのマウスピースでMLボア・37ベル・25パイプを吹く事は、Bach本人も想定外だったと考えることができるのです。

 マウスピースの口径を大きくすると、楽器もより大きなボア・太いベルの方が相性がよくなります。 より大きなボアを求めてLボア43ベルの組み合わせや、65ベルのような太いベルという選択もありますが、 もしBachが1990年代まで現役で開発を行っていた場合、大きなボアを持つ全く新しいB管が作られた可能性があります。 現在多くの奏者が1~3のマウスピースでMLボア・37ベル・25パイプのB管を吹いていますが、これが最適なのかどうかはわかりません。




C管

 Bachが1924年~1961年の間に製作したC管は523本で、1941年までに73本、1945年以降に450本という内訳です。 第二次世界大戦で止まっていたC管の開発は、1945年以降に加速しました。 1953年にLボア・229ベル・25パイプのC管が生産されはじめ、1955年にシカゴ交響楽団に4本納入されています。 1956年にはチューニングクルークの幅がそれまでよりも広い設計に改められ、239ベル・25パイプの楽器が登場します。 1956年から1961年にかけて、239ベル・25パイプのC管はLボア63本、MLボア91本が生産されています。 また238ベルのC管については、Lボア13本、MLボア37本が生産されています。 これらのことから、BachがSelmerに会社を売却した時点では、C管のボアのニーズがMLボアからLボアへ移行しつつもMLボアの方がまだ需要があったと考えることができます。

 大きなマウスピースで自由に楽器をコントロールするには、楽器もより大きなボア・太いベルの方が理想的と言えます。 BachのC管は、オーケストラでの使用に耐えるため、「B管のように」「ドイツのロータリートランペットのように」、太く豊かで大きな音を追い求めたため、 大きなボアと太いベルを持っています。 その点でLボア・239ベル・25パイプという組み合わせは、大きな口径のマウスピースと理想的なマッチングと言えるかもしれません。 しかしこの組み合わせでチャイコフスキーの交響曲を吹ききれる体力のある奏者は、ほんの一握りと言っていいでしょう。 体力消耗の点で、多くの人にとって理想的な組み合わせとは言い切れません。 逆に小さな口径のマウスピースを使う場合、Mボア・7パイプ・236ベルなどの組み合わせが考えられます。 しかし音質の点で前者にはかないません。




DカップとD管

 BachのDカップやEカップは、本来SMボア・304ベルや311ベルを採用した20世紀前半の小型のD管トランペットの為に開発されたマウスピースでした。 後継機のM236/7Dも室内楽や編成の小さな古典的交響曲での使用が想定されていました。 これらの楽器には7DWのマウスピースを用い、コンパクトな音量で演奏する事をBachは考えていました。 Bach本人はD管がオーケストラの現場で主力機として使われる事は想定していなかった為、大きくて豊かな音は求めていなかったのです。

 しかし1968年になるとSchilkeからMボアを採用したD/Es管E3LやE3L4が発売され、soloやオーケストラの現場でD/Es管で大きな音を出すようになりました。 これらの楽器に7DWを用いると音が明るすぎてオーケストラの中で浮いてしまいます。 またBカップやCカップで大きな音を出そうとすると、音程やコントロール面でベストな選択とは言えません。 Bach引退後Selmerの技術者が開発した、MLボア・239ベルの189、Lボアを採用した189XLも登場し、D/Es管のボアの大型化が進みました。 これらの楽器は20世紀前半のD管とはかけ離れています。




Eカップとピッコロトランペット

 ピッコロトランペットを7EWで吹くのはどうなのでしょうか? 現在の7E・7EWのカップ形状は、New York時代の7Eとほぼ変わっていません。 Bachは1925年の段階でSボアのB管ピッコロトランペットを作っていました。 しかし35年以上の月日が経ち、Bachが引退したころ、ピッコロトランペットにも大きな変化が始まろうとしていました。

 フランスのSelmerはMaurice Andréと共に近代的なピッコロトランペット開発の先駆者となりました。 Selmerは1959年に3本ピストンのピッコロトランペットの360Cを製作しました。 翌年には4本ピストンのピッコロトランペットも製作され、1967年にはMaurice Andréが監修した4バルブピッコロトランペットである360Bが完成します。 Andréはこの楽器に7DWのマウスピースを使用していたそうです。

 一方1966年9月、アメリカのSchilkeが3ピストンのピッコロトランペットを開発します。 ここから何度も改良を重ねたSchilkeは、1971年に4本ピストンのピッコロトランペットP5-4を発表しました。 このSchilkeのP5-4は大き目の0.450インチのボアを備えていたため、それまでの0.415インチが主流だったフランスのピッコロトランペットと一線を画しました。 またロングコルネット用の短い長さのマウスピースを使い、楽器とのバランスを取ったのです。 演奏の容易さ・音程・音色・コントロールの点からP5-4はSelmerを押しのけ、ピッコロトランペットの代名詞となったのです。

 現在のピッコロトランペットはSchilke P5-4を手本に開発されているものが殆どです。 そしてこれら楽器を演奏する時、Bach 7EWやSchilke 11AXなどのマウスピースが用いられていることが多いです。 しかしボアサイズ・ベル直径や太さの点から、現代のピッコロトランペットは1950年代~1960年代のピッコロトランペットより大きく進化していると言えるでしょう。 一時期スロートを25程度まで拡張するという追加工が流行りましたが、標準品のマウスピースのままの方が良いかどうかは個人の感覚の問題も大きいのかもしれません。 またBachの117バックボアとSchilkeのXバックボアは、共に非常に太いバックボアですが、楽器から出てくる音色は大きく異なります。
























参考資料
バックボア計測データの比較


 以下の比較データは独自にVincent Bachマウスピースのバックボアを計測し、数値をグラフ化したものです。この計測データの信頼性については一切の保証を致しかねます。あくまで個人の趣味の範囲で計測したものと捉えてください。また個体差等の誤差についても不明である事をご了承ください。




各カップにおける標準バックボア
A:24、B:7、C・無印:10、D:76、E:117


 グラフ下側がマウスピース側、グラフ上側楽器側。右に行けば行くほど大きくバックボアが拡がっている。途中までの開き方は殆ど変わらないが、中盤以降に24番と117番が大きく開いている事がわかる。









標準Cカップの10番バックボアとシンフォニックバックボアとされる24番、ピッコロトランペットで定番の117番バックボアの比較。

 117番は時々細いと勘違いされるが、24番よりもはるかに大きく開いている事がわかる。









標準Cカップの10番バックボアと、Schmidt Styleとされる7番バックボアの比較。

 7番はやや深めのBカップのバックボアで、「Schmidt」という名前から、太くでロータリートランペットに最適だと思われがちであるが、実際には10番と太さはさほど変わらない。これは1920年代のロータリートランペットのバックボアであり、当時はロータリートランペットのバックボアは今ほど太くなかったのである。Gustav Mahlerが生きていた頃のボヘミアやウィーンのトランペットは、このような細いバックボアのマウスピースで演奏されていた。









標準Cカップの10番バックボアと、浅いDカップ・Fカップで採用されている76番バックボアの比較。

 76番は細いとされているが、10番と殆ど変わらない。









Vカップや特注バックボアも合わせた比較。

 41番の細さと87番の太さが目立つ。









細い41番バックボアと10番・76番との比較。

 41番バックボアは明るい音で有名である。前半の拡がり方全バックボア中で最も細い。









3番バックボアと24番、10番の比較。

 3番バックボアは24番に次いで暗い音とされる。前半の拡がり方が非常に大きいことがわかる。現在のバックボア番号の中で最も若く、Bachが最初期に設計したものと推定される。









太い87番バックボアとVカップに採用されている25番バックボア、24番と117番の比較。

 シンフォニックとされる24番バックボアよりも太いBach製バックボアはいくつか存在する。一つは5Vマウスピースに採用されている25番バックボアである。5Vは20スロートで、フリューゲルホルンマウスピースのような直線的なVカップである。25番バックボアとの組み合わせで大きな音で息がよく入るようになり、豊かな音が鳴る。もう一つは87番バックボアである。87番は全バックボア中で最も太く117番よりはるかに太い。現在のロータリートランペットに用いると良い結果が出るだろう。










Vincent Bachの歴史に進む。










 
Назад
Zurück