Vincent Bach Trompete Model
 
 Vincent Bachトランペットについての解説を、5つの記事に分けて書いています。こちらのページでは、Vincent Bachトランペット(B管180MLを中心に)について解説しています。



1 : Vincent Bachのトランペット1
B管180MLを中心に
2 : Vincent Bachのトランペット2
様々なベル・リードパイプとBachが設計した特殊管
3 : Vincent Bachのマウスピース1
ナンバー表記と形状
4 : Vincent Bachのマウスピース2
Bachの意図と現代のズレ
5 : Vincent Bachの歴史










1 : Vincent Bach Trompete 1






 Vincent Bachのトランペットには様々なモデルがあり、一般的な180シリーズの中にもベルやマウスパイプの組み合わせが多数存在します。一般的に「BachのB管トランペット」「Bachのストラド(Stradivarius)」「Bachの2本支柱」と言われるものは、180ML37というモデルです。Bachで生産されるトランペットの過半数を占める180ML37ですが、ラッカーか銀メッキ、ノーマルかゴールドブラスが選べることはよく知られているでしょう。では、まずノーマルとゴールドブラスの違いは何でしょう?

 「ノーマル」「ゴールドブラス」とは、ベル部分の材質のことです。ノーマルは「イエローブラス」とも呼ばれ、銅70%・亜鉛30%の真鍮合金でできています。一方でゴールドブラスとは、銅85%・亜鉛15%の真鍮合金です。両者の銅含有量の違いから、イエローブラスはより黄色に、ゴールドブラスはオレンジに見えます。ラッカーの楽器なら容易に色の違いに気づく事ができるでしょう。イエローブラスは「明るい音色」、ゴールドブラスは「暖かみのある音色」です。ゴールドブラスの方が材質が固く、製造時に手間がかかる事から値段が1万円程高くなっていますが、どちらが高級という事はありません。音色の好みの問題です。銀色に見える部分は「ニッケルシルバー(洋白)」と言われる材料が使われています。ニッケルシルバーは銅60%・亜鉛20%・ニッケル20%でできた合金で、500円玉などに使われています。銀メッキの場合は外見からの色はわかりませんが、ベルの彫刻を見れば情報が彫りこまれているので分かります。ベル彫刻に37Gなど数字の後に「G」と書いてあればゴールドブラス、「37」等数字だけの場合はイエローブラスです。




真鍮材の銅と亜鉛の割合

材質名亜鉛備考
イエローブラス70%30%-
ゴールドブラス85%15%-
レッドブラス
コパーベル
90%10%各社で呼び方が異なる




 ベルに彫りこまれている情報は、G以外にも多くあります。Bachはベルの重さを3段階選ぶ事ができます。薄肉のベルの場合「ライトウェイトベル」、反対に分厚くすると「ヘビーベル」と言われます。ライトウェイトベルの場合、ベル彫刻の記号には「☆」が、ヘビーベルの場合は「H」が記されます。ベルに示されている重さと材質の表記は以下の表の様になります。




Bachのベル彫刻表記とベル材質・重さ

記号意味
番号のみ
イエローブラスベル
Gゴールドブラスベル
イエローブラス
ライトウェイトベル
Hイエローブラス
ヘビーベル
G☆ゴールドブラス
ライトウェイトベル
GHゴールドブラス
ヘビーベル
STERLING PLUS銀99%




 一般的に、軽い楽器は音の立ち上がりが良く、明るい音になり、楽に鳴らす事ができます。一方で、音がペラ過ぎる、馬力が無い、というネガティブな意見もあります。重い楽器は鳴らすのに体力がいりますが、豊かな音、パワーのある音になります。スターリングシルバーベルの楽器は、真鍮材よりもベルが重い為、よりパワーのある音になり、吹奏感はよりキツいものになります。

 楽器の表面処理は銀メッキかクリアラッカーが9割を占めています。クリアラッカーは透明なアクリル塗料で、見た目は真鍮や洋白の地の色に見えます。クリアラッカーの主要な役割は、表面を錆びさせないことにあります。ゴールドラッカーは表面を華やかな金メッキに見せる為、アクリル素材に黄色の塗料を混ぜたものが用いられます。一方銀メッキは、表面に薄い銅を塗った後に銀メッキを施します。一般的に、クリアラッカーの楽器は固く暗い音色で、音抜けが良い傾向にあります。銀メッキは明るく柔らかい音色です。銀メッキの方がラッカーより1万円~2万円程高いですが、両者の違いは買う人の好みによるところが大きいでしょう。

 金メッキの楽器は見た目が非常に美しく、柔らかく芯があり、かつ銀メッキより暗めの音色が出ます。楽器の抵抗感も増え、しっかりと遠くまで鳴り響いてくれる感覚です。また金は錆びにくいので、長い間表面の美しさが維持されます。金は通常真鍮の上にはメッキ出来ないので、Bachは下地に銀メッキを施した後に金メッキをかけています(銅・銀・金の三層構造)。価格は銀メッキより10万~20万円ほど高価ですが、音色・抵抗感・見た目の点から一度は体験してみる価値があると思います。




MLボア、37ベルにおけるB管の品番と表面処理

品番仕様
180ML37
クリアラッカー
180ML37 GLゴールドラッカー
180ML37 SP銀メッキ ( Silver Plated )
180ML37 GBゴールドブラスベル
180ML37 GBGLゴールドブラスベル
ゴールドラッカー
180ML37 GBSPゴールドブラスベル
銀メッキ
180ML37
Sterling plus Bell
銀ベル・クリアラッカー
180ML37
Sterling plus Bell SP
銀ベル・銀メッキ
180ML37 GP
金メッキ ( Gold Plated )
180ML37 GBGPゴールドブラスベル
金メッキ




 これらの他に、ベルだけでなくリードパイプや抜き差し管を軽量化したLTモデル、チューニング管をリバース構造(チューニングクルークの内径をリードパイプより大きくし、抜き差しを逆にすることによって、リードパイプの段差のない距離を長くしたもの)にしたRモデル、両者を採用したLRモデルも存在します。LTモデルでは楽器全体の重量が軽くなるので、楽器の抵抗が少なくなり、音の立ち上がりも速くハッキリします。リバース管にするメリットは、抵抗が少なくなり、息がよく入るようになることです。また高音域のイントネーションがつけやすくなります。特に後述するC管では、リードパイプがB管より短くなる為、リードパイプを少しでも長く取りたければリバース構造にする方が都合が良いのです。一方低音域では少し息が詰まるような吹奏感に変わってしまう為、リバース管を嫌う奏者もいます。




品番仕様
LT180ML37
LT180ML37 GL
LT180ML37 SP
LT180ML37 GB
LT180ML37 GBGL
LT180ML37 GBSP
ライトウェイト仕様
ベル・リードパイプ・抜き差し管
ベルのみ、ボディのみも選択可
LR180ML37
LR180ML37 GL
LR180ML37 SP
LR180ML37 GB
LR180ML37 GBGL
LR180ML37 GBSP
ライトウェイト仕様
チューニング管がリバース管
( 25LR )
R180ML37
R180ML37 GL
R180ML37 SP
R180ML37 GB
R180ML37 GBGL
R180ML37 GBSP
チューニング管がリバース管( 25LR )




 では180ML37の180、ML、37とは何のことでしょうか?180はシリーズ名、MLはボア径(管内径)の太さ、37はベルの型番を示しています。Bachではアルチザンシリーズ(Artisan collection)やビッグコパー(Big Copper)が190のシリーズ名として売り出されており、昔ながら(20世紀)の180シリーズと差別化されています。180シリーズは、Vincent Bach本人が設計したトランペット、と言う事もできるでしょう。

 MLはボア径(管内径)です。ボアの太さは以下の様に決められています。真鍮の中空パイプにボア径の直径を持つ金属球を通して作るという製造工法上、ボア径の大小に関わらず質量は長さに比例し、太いボア径の方が薄肉になる傾向にあります。各ボアの内径は以下の通りです。ボア径は細いほど抵抗が大きく明るい音色になりますが、大きな音や豊かな音を出すことには向きません。反対に太いと、抵抗が少なく大きく豊かな音になりますが、高い音がきつく演奏に体力が必要になる傾向にあります。




ボア内径
(S)0.401inch / 10.19mm
S0.448inch / 11.38mm
M0.453inch / 11.51mm
ML0.459inch / 11.66mm
L0.462inch / 11.74mm
XL0.468inch / 11.89mm
MLV0.453 - 0.459inch / 11.51 - 11.66mm
Dual bore




 37とはベルの型番です。ベル部に彫刻で37と彫ってあるので殆どの人は、見た事があるでしょう。ベルは37以外にも数多く存在します。更にベル以外にも、リードパイプにも種類がたくさんあります。通常180ML37には25パイプのリードパイプが取り付けられています。そして、ベルとリードパイプの組み合わせは、ボア径によって標準品が決められています。

 しかしながらBachでは、ボア径に応じた標準的なベル・リードパイプの組み合わせ以外にも、奏者が特注で自由にオーダーできるようにもなっています。Bach自身がオーストリア人だった為か、Vindabona(ウィーンモデル)と言われるピストントランペットでウィーンのロータリートランペットのような音がでる72ベル、43パイプ、MLVボアというセッティングや、ドイツの重厚なロータリートランペットを意識した65ベル、反対により明るく華やかな音色を求めた43ベルというものも存在します。




BachのB管における、ベル・マウスパイプ・ボアの標準的組み合わせ

ボア径ベルマウスパイプ備考
M3825-
ML3725Standard
L2525-
XL4325-O-
MLV7243Vindabona
ML432543 Bell / ML
ML722572 Bell / ML




 それぞれのベル・マウスパイプにはどんな特徴があるのでしょうか?またC管やD管などの特殊管はどうなっているのでしょうか?続きはVincent Bachのトランペット2で解説します。



Vincent Bachのトランペット2へ進む。










 
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