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1930年代全盛期となったNew York Bachは、7ベル・7リードパイプ・Lボア・(現代の基準で)ライトウェイトベルという仕様です。同時期には現代に残る6番や7番のリードパイプも開発されています。また、現在BachのB管に標準でついている37ベルは1930年代に製品化されたものでした。1950年代のMt.Vernon期になると、音程やイントネーションを改良した43パイプや、セルマーのリードパイプをコピーした44パイプが登場します。そして1960年代には、ベルの厚みを増したものが標準モデルとなり、現在の180シリーズの生産も開始されます。1961年、会社を売却する時点でBach本人が量産を認めたB管のモデルは、 ・37ベル / 25パイプ / MLボア ・72ベル / 43パイプ / MLVボア(Vindabona) でした。72ベル・43パイプ・MLVボア(MボアとMLボアのデュアルボア)で知られるVindabonaは、ロータリートランペットの音を意識したモデルです。20世紀前半~中盤、北米とヨーロッパではオーケストラに求められる音色が既に乖離していました。当時のドイツ・オーストリアで使用されていたロータリートランペットは、ヨーロッパ以外の人からは「ドイツ・オーストリアの民族楽器であり、自分たちの楽器とは異なる。」という意識が強かったのです。アメリカ東海岸のオーケストラでは、ロータリートランペットの音とは異なる「ニューヨーク・ボストンのシンフォニック」という感覚が、既に確立されていました。Bachはオーストリア人だったので、Vindabonaモデルの採用によって、故郷ウィーンのロータリートランペットの音を再現しようと試みたのでしょう。一方、Bach標準モデルとなった7ベル・7パイプ・Lボアや37ベル・25パイプ・MLボアは、それぞれ20世紀前半と中盤の「ニューヨーク・ボストンのシンフォニック」な音を追求したモデルになります。BachはB管を改良していく事によって、それぞれの時代に合わせたアメリカ東海岸のオーケストラの要求に応えたのです。 現在Bachでは37ベル・25パイプ以外にも、ボア径を含め様々な組み合わせがオーダー可能であり、またボアサイズによって「標準品」とされるベル・リードパイプが決まっています。 |
ML | 37 | 25 | Standard |
MLV | 72 | 43 | Vindabona |
M | 38 | 25 | - |
ML | 37 | 25 | Standard |
L | 25 | 25 | - |
XL | 43 | 25-O | - |
MLV | 72 | 43 | Vindabona |
ML | 43 | 25 | 43 Bell / ML |
ML | 72 | 25 | 72 Bell / ML |
Bright ↑ ↓ Dark |
25 43 38 37 72 65 |
Standard Vindabona |
All Styles ML bore Standard |
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XL bore Standard |
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MLV bore Standard |
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L bore Standard |
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M bore Standard |
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Germany Dark |
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1930s New York Bach |
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Standard Pipe |
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XL bore Standard Pipe (Light weight)LT Standard Pipe |
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MLV bore Standard Pipe |
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Reverse Model Standard |
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1920年代の創業当初 ・B管 ・C管(フランス人が使う小さな楽器) ・D管(現在のピッコロトランペット) (Es管以上の楽器はほぼ需要無し) 1950年代頃 ・B管 ・C管(B管と同じ力強さ) ・D管 ・Es管、F管、G管 ・G / High B管 Bach没後、20世紀の各メーカーの考え ・B管 ・C管(B管と同じ力強さ) ・D / Es管(ソロやアンサンブル) ・(E管)、F / G管 ・A / B管ピッコロトランペット 近年 ・B管 ・C管(B管と同じ力強さ) ・D / Es管(C管と同じ力強さ) ・(E管)、F / G管 ・A / B管ピッコロトランペット 創業当初の1920年代、トランペットは大きな音の出るB管と、小型のC管・D管という区分分けがされていました。Bachもこの流れを汲み、初期の頃のC管とD管のベルは共通で開発しています。 第二次世界大戦中、Bachはボストン交響楽団首席トランペット奏者Georges Mager(Jean Baptiste Arbanの弟子にしてAdolph Hersethの師)と共に、オーケストラでスタンダードとなるC管トランペットの研究を進めました。これは今までのD管やEs管のような特殊管一つとしてのC管ではなく、「大型でB管の様に演奏できるC管」という考えのもとに設計されたものです。Georges Magerはフランス系アメリカ人だったので、ボストン交響楽団はアメリカで唯一C管を使用するオーケストラになっていました。しかしそれまでのC管は、BachのB管に比べて音が貧弱なものでした。そこで、Bachは新たに大きくて立派な音の出せるC管を開発しようとしたのです。 この後、1946年~1948年に若きAdolph Hersethがボストン交響楽団Georges MagerとMarcel Lafosseにトランペットレッスンを受けてC管の魅力に取りつかれました。1948年、シカゴ交響楽団にの首席トランペット奏者に就任したAdolph Hersethは、シカゴ交響楽団にC管を持ち込みました。こうして1950年代よりアメリカのオーケストラは、ゆっくりとC管が浸透していく事になります。C管完成後も、Bachは会社を売却する1961年までC管の試行錯誤を繰り返し、C管/D管用に設計した200番台のベルは多数研究と試作が繰り返されました。当初200番代のベルはC管とD管の共用ベルという扱いでしたが、220番代や230番代のベルになるとC管を前提とした設計になっています。 初期の頃によく用いられたベルの一つに、211ベルがあります。211ベルは、イギリス期のBessonからコピーした202ベルの開き方と、フランス期のBessonからコピーした201ベルの根元と組み合わせたものでした。この頃、C管で有名だったのはBengeのトランペットでした。製作者のElden Bengeはシカゴ交響楽団の首席奏者で、1937年よりBessonをもとにしたB管トランペットを製作していました。BengeのC管もBessonコピーのベルを採用していたのですが、残念ながらBachが理想とするような音ではありませんでした。Bachは当時のボストン交響楽団のB管のような音をC管に求めました。B管の37ベルと同じような音で、大きなオーケストラの中でしっかり鳴って、太い音で、しかし芯もしっかりあるような音です。ベルの形を試行錯誤していくうち、Bachはある事に気が付きます。 ・マウスピースのスロートサイズ+管のボアサイズ+管の長さ=音量 ・マウスピースのカップ容積+ベル容積=音質の決定 一方で ・マウスピーススロート拡張+Lボア=高い音の音程に支障が出る つまり ・音量と音程はトレードオフ 当時、Bengeは大きなボアでは音質を保てない、としてLボアのC管を製作する事はありませんでした。しかし、C管はB管より短い為、音量を稼ぐためには管のボアサイズを大きくする必要がある、という事にBachは気が付いたのです。また太くで暗い音色を求めるあまり、ベルの開き方や大きさをやみくもに大きくすると、音の芯が無くなってしまう事にも気が付きました。 ・ロータリートランペットのような太くて暗い音 ・ベッソンのような音の芯がある(明るい) この二つは相反する要素であり、丁度良いバランスが「ニューヨーク・ボストンのシンフォニック」な音という認識が成されていたのです。 Bachはこの二つの要素のバランスを探る為ベルを試作して実験を繰り返しました。211ベルはMボア(0.453インチ)とステップボアチューニングスライド(0.421、0.428、0.435)に組み合わせることを想定していましたが、やがて更に太いボアを求められるようになりました。そしてLボア(0.462インチ)まで拡張された大型のC管は、Georges Magerの要求を見事に満たしたようです。若きAdolph Hersethも当初はケノンのC管を使用していましたが、Georges MagerからLボアの楽器を強く勧められ、LボアのC管を使用するようになりました。シカゴ交響楽団の首席トランペット奏者に就任したAdolph Hersethは、更にBachに「もっとロータリートランペットのような、太くて豊かな音が欲しい。」という要求を伝えます。この要求を満たすため、Bachは更に太いC管のベルと大きなボアを前提としたC管の開発を進めました。そして最初に行きついたのは229ベルでした。このベルにB管の25パイプをC管用に短く切ったものを組み合わせ、1940年代後半に標準品として完成させたのです。この229ベルのC管は、1955年にAdolph Herseth率いるシカゴ交響楽団トランペットセクションにも納入されています。 楽器の大型化は進み、230番代のベルではLボアが前提となるようなベルが産み出されます。229ベルより更に音色が暗く、太くてロータリートランペットのような音を求めた239ベルが完成すると、Bachは新しい25パイプ(リードパイプの説明で後述)と共にC管の標準を229ベルから239ベルに変更しました。しかしこれがC管の完成形であるとはBachは思っていなかった様です。Lボアの239ベルでオーケストラを2時間演奏するには体力を要しました。また音程もB管程は良くありませんでした。これらの要素はB管の37ベルに対して大きなマイナス要素だとBachは感じていたのです。「この楽器のままではAdolph Hersethのような奏者しか演奏できない」と感じたBachは、今度はAパイプ(リードパイプの説明で後述)、MLボア、238 Vindabona、236ベル、237ベルなどの実験を始めました。 ※ この場合のLボア239ベルで「演奏できる」、とは、フルオーケストラの中で大音量でMahlerやTchaikovskyの1st Trumpetを演奏し、2時間のプログラムを完走できる、という意味です。シカゴ交響楽団のAdolph Hersethは、Lボアの229ベルに25Hのパイプをつけ、マウスピースは1Bで演奏していました。アマチュア奏者でこの楽器・マウスピースでオーケストラの首席奏者を十分に勤められる人は、かなりの上級者と言ってよいでしょう。 しかし、この時Bachは年齢が70歳を超え、体の衰えを意識し始めていました。1961年、彼が最後まで試行錯誤していたのは238ベル(Vindabona)でした。この年彼は71歳で引退を決意し、会社をSelmerに売却します。この時点で、各C管のベルは楽器本体やリードパイプとのバランス・マッチングの納得できる最適解を出せてはいなかった様です。会社売却にあたり、Bachが量産を認めたC管のベルは229ベルと239ベル(標準)の2つでした(リードパイプについては後述)。後にSelmerは「Adolph Hersethの使用している楽器」として229ベルのC管を標準ラインナップに追加し、BachのC管は229と239のどちらかを選ぶ、という慣習ができました。現在においてもBachのC管を使用している奏者は、プロ・アマチュア問わず229ベルを愛好する者と239ベルを愛好する者に大きく二分されます。また現在C管のラインナップにあるベルは、229、236、238(Vindabona)、239、256の5つです。 |
Bright ↑ ↓ Dark |
211 236 229 239 238 256 |
Standard Vindabona |
C trumpet Standard |
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Tighter than 239 |
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D trumpet Standard |
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Vindabona C Standard |
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Vindabona D Standard |
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Rotary Trumpet |
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Rotary Trumpet |
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※ シカゴ交響楽団のAdolph Hersethは、1Bのマウスピースで演奏していました。 BachはC管を開発する中で、ベルの長さはそのまま、リードパイプからチューニング管の部分を短くするデザインがベルの性能を最大限に生かし、音の芯と太く暗い音を両立させることに気付きました。ロータリートランペットの様に全体的にベルとリードパイプを短くすると、ベルが短くなった分ベルの性能が十分に発揮できず、音色が満足いかないものになります。しかしながら、ベルの長さを確保するとリードパイプを短くする必要があります。そうすると楽器全体の長さの中で円筒管部分の長さの比率が少なくなり、音程が不安定になってしまったのです。 BachはC管用のリードパイプをいくつか試作してみたのですが、どれも満足のいくパイプとは言えません。そこでB管のリードパイプをどんどん短くしながら楽器のバランスを模索しました。当初は7パイプをC管に使用していましたが、大きなを持つ太い229ベルの楽器には25パイプを約3/4に短くしたものが相性が良いと気付いたのです。彼はB管の25パイプを約3/4の長さに短くしたものをLボアの229ベルに組み合わせました。しかし、この組み合わせは229ベルから生み出される大きくて豊かな音をよく活かしたのですが、音程のコントロールの面ではB管の37ベルに軍配が上がります。吹きやすさをを求めると音が犠牲になり、音を第一に考えると吹きやすさが犠牲になる。このトレードオフを探っていく中で、Bachは「管内部にギャップを作る」というアイデアに至ります。 ギャップとは、楽器の内部における、パーツとパーツの分かれ目の段差・隙間です。例えば、楽器の入り口から中をのぞくと、数cmほどの奥の所にレシーバとリードパイプの段差がある事がわかります。マウスピースをレシーバに挿すと、マウスピースの先端はこの段差の手前数mm程度の所で止まります。この段差部分の隙間の長さが短いと、楽器の音程のセンターは狭くなり、長いと曖昧になります。このような段差はチューニング管を抜き差しした時にも生じますし、ピストンバルブのフェルトやゴムがヘタっていても生じます。Bachはこの隙間に目をつけ、パーツの接合部や抜き差し管部の段差をわざと生じさせ、楽器が許容する音程のセンターを広げたのです。 Bachはマウスピースとレシーバのギャップ、内管長さから生じるギャップ、ピストン機構のケーシングの穴とピストンの穴の位置ギャップの数値を指定して「わざと微妙な段差作るように」楽器を設計しました。これはギャップを悪い誤差と捉え、制度の高い数値管理でピッタリ作る設計思想とは真逆の考えと言えるでしょう。彼の出した答えは、 十分上手い演奏者であれば ・音のツボが広い楽器でも、音のセンターを打ち抜ける。 つまり、演奏者が音程とイントネーションを決定する。 ・楽器が作るのは音色。 というものでした。ある意味この逆も正しいと言えます。現在音程の良いC管が各社から次々に発表されていますが、音程の良い楽器とは ・楽器が音程を作る。 ・奏者は音色作りに集中できる。 という考えが前提にあります。 どちらが正しい・正しくない、どちらも正しい、バランスの問題である、という議論はさておき、Bachは音程・操作性と音色のトレードオフをギャップで解決するという答えに行きつきました。 こうして「B管のように堂々とした音で、オーケストラで使える」標準品のC管は、ギャップを拡大したパイプやボアの大型化を経て、Lボアの229ベルと239ベルに行きつきました。一方でこれらのC管は、演奏に体力を要した事も事実です。大きな音を求め、1BC~3BC程度のマウスピースを使用すると、どうしてもリードパイプは25になってしまいます。またパイプを25にすると、ベルは239か229という選択にしかなりません。そこでMLボアについてもベルとリードパイプのバランスを探りました。230番代のベルはLボアを前提とした作りになっていた為、220番代のベルで組み合わせを模索した結果、結局229ベルに7パイプが良いという結論に至りました。7パイプは、かつてMLボアで211ベルと組み合わせて作られた時代のC管に使用していたパイプです。会社を売却する1961年段階で、Bach本人が量産を認めたC管のモデルは 229ベル・7パイプ・MLボア 229ベル・25パイプ・Lボア 239ベル・25パイプ・Lボア(標準品) の3つで、最後まで実験していた238ベル・MLVボアは外れてしまいました。 C管用の25パイプには様々なバリエーションがあります。通常のC管用25パイプは、9.750インチのB管の25パイプを約3/4の長さにカットしたもので、全長は7.125インチです。初期の229ベルに装着されていたリードパイプは、このカットされた25パイプが用いられていました。このリードパイプのレシーバー側の最小径は元々0.347インチでしたが、後に0.351インチに拡張されたものが使われるようになりました(B管の25-Oパイプと同じ)。拡張された25パイプは、チューニングスライド側に管の上からスリーブをかぶせて大きな段差が作られており、音のツボが広く、強力なプレーヤーにとっては音の発音と音程を自ら作り出せる設計となっています。 一方新しい239ベルに装着された25パイプは、長さは7.125インチではあるものの、最小径はB管の25パイプと同じ0.347インチです。またチューニングスライド側では、最後の0.750インチでチューニング管の内側に合う径に拡張調整されているため、229ベルに付いている拡張型25パイプに比べて抵抗を生み、音程のセンターがある程度楽器で作られるようになっています。 Selmerでは、標準品とされる239ベルの楽器に装着された25パイプは25Cパイプと呼び、レシーバーに刻印を打っていません。一方で、Adolph Hersethやシカゴ交響楽団に納入された古いタイプのC管、229ベルの楽器に装着されている拡張型25パイプを25Hパイプ(Hersethパイプ)と呼び、レシーバーに「25H」と刻印を打っています。この「H」はHerseth本人には確認を取らず、Selmer社で独自につけた型番でした。Bach本人は239ベルが完成した時、それまでの229ベル・拡張型25パイプ・Lボアから239ベル・25パイプ・Lボアに標準品を移行しました。しかし後に「シカゴ交響楽団に納入された楽器を入手したい」という顧客の要望にSelmer社が応え、229ベルの楽器も販売され始めたのです。この時、229ベルの楽器に付いていた古いタイプの拡張型25パイプを239ベルの25パイプと区別するため、25Hという名前をつけたのです。 これらの他に、25Hや25Cの音程を改善するために、初期のNew York期の25パイプを採用したC管用パイプも登場しました。この25パイプは25Hよりも1.500インチ長く、全長は8.625インチです。1.000インチ分はチューニングスライド管の内側に伸び、0.500インチはマウスピースレシーバーの端に追加された設計となっています。パイプが長い分、チューニングの際に管を1/4インチ程度押し込んで補正する必要が生じましたが、第5倍音の音程を低くなりすぎないように改善できる事に成功しました。クリーブランド管弦楽団首席奏者のBernard Adelsteinのオーダーにより実現したこのパイプは「25A」と刻印され、現在も標準品の1つとして229ベル・239ベルの楽器に装着されています。 更に音程の向上を実現する為、B管のリードパイプをそのままC管に採用する手法も模索されました。「25S」と呼ばれるパイプはチューニング管の内側にリードパイプを延長することで、B管の25パイプをそのまま使用することに成功しました。最小径は25Hと同じ0.351インチで、パイプがチューニング管部まで延長されたため、チューニング管は0.750インチ程度しか抜くことができません。このパイプはボストン交響楽団首席奏者のCharles Schlueterが使用していました。またリバース構造によりB管の長さを実現した「25R」も開発されました。この設計では、ベルとチューニング管をつなぐ支柱を手前に移動させる必要がありましたが、ベルがより自由に振動する事を助けました。25Sと25Rは第5倍音の音程を改善し、B管のような感覚を奏者に与える一方で、第8倍音付近の音では抵抗が強くなり、息の自由度は25Hよりも少なくなります。 Bach死後の1980年代~1990年代になると、Bob Malone製(現在ヤマハシカゴ・ニューヨークモデルに標準装備)やBlackburn製などの改造工房によるリードパイプの登場、更にSpadaのような完全チューンナップメーカーが登場しました。BachがC管研究途中で会社を手放した理由に老齢と体力の限界が挙げられますが、1960年段階ではアメリカのオーケストラでC管を使う奏者がまだ珍しく、一般的に普及するとは考えていなかったというのもあるでしょう。また、そもそもC管を使用する奏者は一部の北米オーケストラの首席奏者だったので、Adolph Hersethのようなかなりの腕前の奏者だけにC管の需要がある、と考えていたのでしょう。つまり、C管一般人が吹きこなせないような楽器であっても構わない、一般人はB管の37ベルでオーケストラを演奏するだろうという結論に至り、万人が演奏できるB管のような音のでるC管の研究を辞めたのです。 Bach引退後、C管は北米だけでなく世界中で広く受け入れられ、1980年~1990年には日本のアマチュアオーケストラでもよく使われるようになりました(更に10年ほど遅れてロータリートランペットも世界中で一般化していきます)。オーケストラ奏者の中で、C管はBachを使っているかそうでないか、Bachを改造しているか標準品か、BachのC管のベルとリードパイプは何か、などの議論は、現在もプロ・アマチュア問わず話題の種になっています。現在のBach180シリーズのC管は圧倒的にLボアが多く、239/25C、229/25Hの二機種に人気が集まっています。また比較的多くの人が容易く選択できる・購入できるものとして、25Aパイプ、256/25Hにする、といった組み合わせが挙げられます。 |
ML229 / 7 | ML | 229 | 7 |
L229 / 25 | L | 229 | 25 |
L239 / 25 | L | 239 | 25 |
L239 / 25C | 239 | 25C | Standard |
L229 / 25H | 229 | 25H | - |
L239 / 25A | 239 | 25A | A-Pipe |
L229 / 25A | 229 | 25A | A-Pipe |
L256 / 25H | 256 | 25H | 256 Bell |
Artisan | Artisan | L | Artisan AC190 |
229 | 25M | L | 229 / 25M |
6 | |
7 | |
25 | |
43 | 小さなマウスピースで大きな音が出しやすい。Bカップと相性が良い。 |
44 | 細いテーパーで明るい音。ニッケルシルバーで作られている。 |
C | 最後の3/4インチでチューニング管に合うように拡張されている。 |
H | 最小径を0.004インチ拡張し、反対側ではスリーブで段差を大きく取っている。 |
A | ニューヨーク時代のC管用パイプ。長さは8-5/8インチ。 |
S | チューニング抜き差し部の内部に管を延長している。最小径が0.004インチ拡張されている。 |
R | リバース構造にする事で、B管と同じ長さにしたもの。 |
D | |
ER |
Standard Pipe Usually combined with 239 Bell |
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Usually combined with 229 Bell It's said that "Herseth Pipe". |
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Usually combined with 229 & 239 Bell It's said that "Adelstein Pipe". |
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It's said that "Schlueter Pipe". |
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New York期にはベルが短く、全体的にショート巻きなD管が作られています。このタイプのD管は、会社をSelmerに売却された頃までは製造されていたようですが、現在は廃盤となってしまいました。ベルには211ベルを採用したものと、ベル口径105mmと小さく高音管用に設計した304ベルを採用したものがあります。元々200番代のベルは、ロングベルの長さで根元のU字を作る「C管曲げ」と、ショートベルの長さで曲げる「D管曲げ」があったのですが、Elkhart期の製造合理化により「C管曲げ」のみになってしまい、211ベルを用いたショート巻きD管は作られなくなってしまいました。細いSMボアが採用された楽器で、ベルの特性からもわかる通り、シンフォニックなC管とは異なる設計であったことが分かります。リードパイプは7をD管用に短く切った7Dパイプが採用されていました。 Mt.Vernon期になると、ロータリートランペットを意識した、VindabonaスタイルのD管が登場します。この楽器は大きく太い244ロングベルを採用し、巻きを小さくしたデザインでした。ウィーンでは小さなD管を用いてブラームスの2番などを演奏する事があった為、それに影響されて開発された可能性があります。Vindabona特有のデュアルボアとなっており、SM-Mの2つのボアと共に7Dパイプが採用されていました。 会社売却後のEarly Elkhart期になると、Schilke社によってD管とEs管を一つにまとめたD/Es管「E3L」が1971年に登場しました。この楽器は音程もバランスも良かったため、残されたSelmerの技術者達は近代的なD管を開発する事を余儀なくされました。この時期に新たにBachブランドで開発されたD管はD180とD180Lです。この2機種はパワーを求めて巻きを小さくし、ロングベルを採用したデザインで、音はシャープながら音程や操作性などの全体のバランスを良くしたSchilke社のE3Lに対抗したモデルとなりました。 D180にはC管用に開発した230番代のベルの中で比較的音が明るい236ベルと、7Dパイプが採用されています。管が短くなった分全体のバランスを考え、ボアは細めのMボアとなりました。D180LはD180のボアをMLに拡大し(型番はLだがMLボア)、239ベルを搭載しC管のような性能を狙った設計です。リードパイプには25をD管用に短くした25Dが採用されました。両楽器ともロングベルでパワーを稼ぐため、リードパイプを短くした設計です。 Schilkeとの違いは、ベルチューニングを採用しなかった点でしょう。Schilke社のE3Lはベルチューニングを採用したため、リードパイプにチューニングクルークを設ける必要が無く、リードパイプはB管のように長いまま、90度だけカーブして3番管に接続されます。一方Bachは、楽器に出来る限りネジ固定部をつけたくない=ベルチューニングはネジが増えるのでベターではない、3番管までに「ギャップ」を作りたい、2つの管を一つの楽器にまとめる事は両方の最適化が困難な点からしたくない、という設計思想を持っていました。これらを採用するためには、チューニングクルークをB管やC管と同じ構造にする必要があります。そうするとリードパイプの長さは短くならざるを得ません。Bachの設計思想を採用したD180やD180Lはリードパイプから3番管までチューニングクルークを介して90度カーブか2回続く構造となり、リードパイプはC管よりも更に短いデザインとなりました。また239ベルはD管で使う事を想定していなかったので、楽器全体のバランスがSchilke程良くはなく、使用者はあまり多くありません。これにより、トランペットのD管のシェアはSchilkeに奪われていく形となりました。 Schilke E3Lの唯一のウィークポイントは、音が明るすぎてオーケストラの現場でシンフォニックな演奏ができない点でした。しかし、Schilkeは更に4バルブのD/Es管である「E3L-4」も発表します。4バルブにする事で低音域がB管と同等まで拡張されたほか、楽器自体の重さが増したことで音は豊かになりました。1970年代以降、この楽器にBachのマウスピースで演奏する奏者や、ベルのみBachに交換した改造(通称シルバック)を施す奏者が登場し、フルオーケストラの現場でD管を使う奏者が増えていきました。 Schilke E3LのデザインはStomviやB&S、ヤマハにも採用され、D/Es管の標準的デザインとなっていきました。現在ではBach ArtisanのD/Es管でも採用されています。また更に進化したヤマハのデザイン様に、Schilkeスタイルでありながらベルチューニングを撤廃したYTR-9636のようなデザインの物も登場しています。 |
304 | 7D? | SM | - Early Elkhart |
211 | 7D | SM | - Early Elkhart |
244 | 7D | SM - M | Vindabona |
236 | 7D | M | D180 |
239 | 25D | ML | D180L |
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Es Trumpet Standard |
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Es, F, G, High B Trumpet Standard |
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304 | 7E ? | S | - 1970s |
AE190 | 121mm | L | Short Es, Big bell |
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229 | 25ER | ML | 189 ( 229 ) |
239 | 25ER | ML | 189 ( 239 ) |
229 | 25ER | L | 189XL ( 229 ) |
239 | 25ER | L | 189XL ( 239 ) |
ADE190 | 114mm | M | Schilke Style D/Es |
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190 | Es | 304 | S bore |
192 | F | 311 | S bore |
193 | G | 311 | S bore |
? | F / G | 311 | S bore |
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186 | G / B | S | S bore |
196 | A / B | S | Copyed by Selmer |
VBS196 | A / B | S | Collaborated by Stomvi |
AP190 | 101mm | M | Artisan |
(アメリカン) |
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(ブリティッシュ) |
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新 | 2010年以降の新製品 |
43ベル、リバース管 |
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7ベル・7パイプ(2008年) |
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6ベル、6パイプ(2000年) |
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