Über Flügelhorn
 
フリューゲルホルンについて
記述途中:コルネットについて
 
 フリューゲルホルンはベル径、ボア径含め各メーカーで設計が異なっており、奏者が活動するジャンルを選ばず様々な選択肢があるのが魅力です。しかしマウスピースのシャンクが数種類存在し、異なるシャンクの楽器とマウスピースを使用してしまうと楽器本来の良さが発揮できない事にも注意しなければなりません。ピストントランペットの2大メーカーとされるBachとYAMAHAは異なるフリューゲルシャンクの代表格です。BachとYAMAHA、それぞれの楽器に互いのマウスピースを挿してみると、入りが浅かったりグラついたりしてしまいます。またBachとYAMAHAのフリューゲルホルン用マウスピースを見比べてみても、長さが大きく異なる事がわかります。



フリューゲルホルンのマウスピース
Bach(左)とYAMAHA(右)
YAMAHAの方がシャンクが太く短い



Bach(左)とYAMAHA(右)のシャンク先端
YAMAHAの方が太い



フリューゲルホルン 左より
MARCATO ロータリーフリューゲル( 160mm Bell )
MARCATO ピストンフリューゲル( 152mm Bell )
Antoine Courtois 4バルブフリューゲル( 195mm Bell )






マウスパイプのシャンクの種類

 フリューゲルホルンのマウスパイプのシャンクは、大きく分けて4種類存在します。



(A)スタンダードシャンク(YAMAHAシャンク)
(B)スモールシャンク(Bachシャンク)
(C)ジャーマンシャンク
(D)フレンチシャンク



フリューゲルホルンのマウスピース 左より
Antoine Courtois(スモールシャンク)
YAMAHA(スタンダードシャンク)
Breslmair(ジャーマンシャンク)



 ジャーマンシャンクは主にロータリーフリューゲルのシャンクです。フレンチシャンクはオールドケノンをはじめとするオールド・ヴィンテージの楽器に採用されている事があります。最近の楽器ではまず見かけないため、通常はピストン式のフリューゲルホルンのシャンクは、スタンダードシャンクかスモールシャンクのどちらかという事になります。



(A)スタンダードシャンクが採用されているメーカー
YAMAHA、Blessing、C.G.Conn、Marcinkiewicz、Getzen、Stomvi、XO、Jupiter、MARCATO、INDERBINEN等

(B)スモールシャンクが採用されているメーカー
Bach、Denis Wick、Courtois、Selmer、Besson、B&S、Holton、Schilke、Burbank、Leblan等



 (A)のスタンダードシャンクはラージシャンクとも呼ばれています。(B)のスモールシャンクに比べてマウスピースの全長が少し長く、テーパー部も若干太く作ってあります。一般的に(A)の楽器に(B)のマウスピース、又は(B)の楽器に(A)のマウスピースを使用すると、入りが浅かったり深すぎたり、グラついたりしてしまい安定しません。楽器の音のツボがズレたり曖昧になってしまったりして、本来とは異なった吹き心地になってしまいます。




楽器とマウスピースのシャンク
シャンクが合っているとマウスピースはぴったりはまる



スモールシャンク、ラージシャンク、ジャーマンシャンク
をそれぞれ正しいマウスパイプに挿した所
入る深さもそれぞれ異なる



(C)ジャーマンシャンクが採用されているメーカー
Cerveny、Lechner、Schagerl、Votruba、Weber、Weimann、Kühn、Dowids等のロータリーフリューゲルホルン

(D)フレンチシャンクが採用されているメーカー
オールド、ヴィンテージと呼ばれる楽器、Couesnon、Besson、Courtois等が有名



 (C)のジャーマンシャンクはヨーロピアンシャンク、ドイツシャンクとも呼ばれています。多くのロータリーフリューゲルホルンに採用されているのがこのシャンクです。ロータリーフリューゲルはトランペットのマウスピースがささってしまう事から、そのままトランペットのマウスピースで演奏出来てしまいます。しかしマウスピースのスロート径やカップ形状が大きく異なる為、楽器本来の音色を出すためにはロータリーフリューゲル用のマウスピースを使用するに越したことはありません(音色を変える目的で、意図的にトランペットのマウスピースを用いる事はある)。
 (D)のフレンチシャンクはストレートテーパー、ケノンシャンクとも呼ばれています。その名の通りシャンクにテーパーの角度が存在しない為、同一径でテーパー角の無いマウスピースでないと使用する事ができません。ケノンシャンクの名の通り、オールドケノンを代表とするオールド〇〇、ヴィンテージ○○と言った20世紀前半~60年代頃までの楽器に見かけられるシャンクです。現在でもオールド物のフリューゲルは一部から人気があり、中古楽器でこれらの楽器を探し求める愛好者の方がいらっしゃいます。




ストレートテーパーの楽器とマウスピース
テーパー角付きのマウスピースであれば使えてしまう








マウスピースのスロートサイズ

 フリューゲルホルンのマウスピースのスロートサイズは概ね4.1mm~4.5mm前後が主流のようです。これはラージシャンク・スモールシャンクともに大きな差はありません。トランペットマウスピースの標準が3.6mm~3.7mmであることを考えると、非常に大きなスロートになります。

 ラージシャンクに代表されるヤマハのマウスピースは11F4のみ3.80mmで、その他は4.30mmのスロートです。一方Bachのマウスピースは1930年代から大きく変わっていません。現代の物に比べてやや小さく、3.99mm(No.22)が標準とされ、Mega Toneの場合は4.04mm(No.21)が採用されています。

 バックボアについては各社独自の研究がなされ、深いカップで豊かな音色を保ちつつ、短いリードパイプの楽器本体に対応できるように考えられています。Bachの場合、標準のフリューゲルホルンマウスピースには112番バックボアと、より抵抗があり明るい音色を狙った119番のバックボアが用意されています。これら2つはトランペットマウスピースでは見ないバックボア番号である事から、トランペットのマウスピースを流用した設計でないことがわかります。




各社のマウスピーススロートサイズ

Bach3.99mm ( No.22 ):Standard
4.04mm ( No.21 ):Mega Tone 
Schilke4.09mm ( No.20 )
YAMAHA3.80mm:11F4
4.30mm:13~17F4
Marcinkiewicz 4.09mm ( No.20 ):FLB
4.31mm ( No.18 ):FLD
4.39mm ( No.17 ):FLS
Courtois4.55mm
Denis Wick4.60mm





ベル径とボア径

 フリューゲルホルンのベルの大きさはメーカーによって様々です。ピストンフリューゲルホルンのベルは152mmが定番ではありますが、それ以外にも多くの選択肢が存在します。ベルが大きくなればなるほど、音は豊かになり、楽器のフォルムはメロフォンに近くなります(ボア径やマウスパイプの長さは大きく異なる)。



ピストンフリューゲルホルンのベル径

149mm Schilke
150mmB&S 3146/2, B&S FBX, Schagerl, Galileo, Van Laar B1, M.jiracek 185
152mmBach, YAMAHA, Burbank, Carol, Conn, Jupiter, XO, MARCATO, B&S 3145, Courtois AC-159R 
155mmINDERBINEN SERA, Kühnl & Hoyer, Van Larr B3, Van Laar B6
160mmGalileo, Kühnl & Hoyer Malte Burba, Cerveny
165mmGetzen, Leblanc F357, Marcinkiewicz Rembrandt
168mmINDERBINEN WOOD
170mmCourtois AC-156R, Van Larr ORAM Sandoval
195mmCourtois AC-156NR

※ ロータリーフリューゲルホルンは後述する




 トランペットのボア径が11.66mmで標準化されているのとは異なり、フリューゲルホルンのボア径はメーカーによって様々です。マウスパイプから10cm強でバルブ機構に入る為、ボア径はピストントランペットより細くなります(ロータリートランペットと同じ)。またロータリーフリューゲルでは、DowidsやWEIMANN Classicoのように11.05mm~11.2mmと段階的にボアを広げている楽器や、Meinlschmidt製ロータリーなら11.0mm、Zirnbauer製ロータリーなら11.2mmと言ったように、楽器に採用しているロータリー部の生産メーカーのボア径に合わせているものもあります。



ピストンフリューゲルホルンのボア径

10.2mm Bach
10.3mmSchilke
10.4mmB&S 3146/2
10.5mmYAMAHA,Courtois, XO, B&S 3145, Jupiter, Conn, Van Laar, Schagerl, Burbank 
10.7mmLeblanc, Getzen Custom
10.8mmB&S FBX
11.0mmINDERBINEN, Carol, MARCATO, Cerveny, Kühnl & Hoyer
11.1mmM.Jiracek
11.7mmMarcinkiewicz Rembrandt, Getzen Eterna

※ ロータリーフリューゲルホルンは後述する





下バネ

 フリューゲルホルンのバネの機構がトランペットと異なる事は、持っていない人にはあまり知られていません。「下バネ構造」と呼ばれ、ピストン内部にバネを内蔵せず、ピストンの下にバネがそのまま入った構造です。全ての楽器ではなく、トランペットピストンをそのまま流用している楽器も多くあります。どちらが上位機種か、といった事はありません。下バネ機構の方が作りが簡単、トランペット流用はフリューゲルの為に生産設備を増やさなくて済むといったメリットがあります。デザインに大きく影響する場所はベルの根元のカーブで、下バネ機構の方がバルブケーシングが短いのでベル根元のカーブが急に、トランペット流用の方が緩やかになります。
 下バネ機構を採用している機種は

・YAMAHA
・XO
・Jupiter
・MARCATO FH381~385
・B&S 3146、3148、FBX
・Kühnl & Hoyer

などがあります。




下バネピストンを採用している楽器



トランペット用ピストンを流用している楽器


バルブケーシングの中身
バネが内蔵されているトランペットピストンに比べ、
下バネピストンは短く太い



それぞれのピストンの機構の違い







4バルブのフリューゲルホルン

Antoine Courtoisの4バルブフリューゲル AC-156NR
NRの"N"はナカリャコフの名から取っている



 Sergei Nakariakovが使用している事でも有名な4バルブのフリューゲルホルンは、一部の愛好家から大変人気があります。フリューゲルホルンはpedal Bがトランペットより容易に鳴らす事ができる為、Es~Hの音をベンディングではなくクリアな音で出したい、ヴィオラやホルンの楽曲を演奏してみたい、という要求に答えた楽器なのかもしれません。ペダルトーンを実際の曲にで使うならば、チェロ、ユーフォニアム、トロンボーンの楽曲も演奏可能です。実際4番管が追加されると、第2倍音からの音域は半オクターブしか下がりませんが、第1倍音のペダルトーンを実用的に駆使する事を想定した場合には、1オクターブ半も音域が下に広がる事になります。

 4バルブフリューゲルホルンを出してる代表的なメーカーと機種は

・Antoine Courtois : AC-156R、AC-156NR
・Getzen Eterna : 896S
・Stomvi : 5938
・Marcinkiewicz : Three FLU

などです。ベル径は154mmから170mm、195mmまで様々です。









ロータリーフリューゲルホルン

MARCATOのロータリーフリューゲルホルン
ジャーマンシャンクの為、Breslmairのマウスピースが
使用できる
ベル径は160mmと大きい



 ロータリーフリューゲルホルンは、ピストン機構の代わりにロータリー弁を採用したフリューゲルホルンです。現在日本でこの楽器を見かけることは大変珍しく、使用用途も「個人の楽しみ」や「敢えて金管アンサンブル使う」程度かもしれません。しかし、このロータリーフリューゲルホルンは日本で誰もが耳にした事のある楽曲で使われていたのです。

 執筆者が小学生時代だった1990年代、運動場で整列して全校朝会を行った後、行進曲が流れて整列更新しながら教室まで帰ったものです。また1990年代後半に中学校へ入り、吹奏楽部で初めてトランペット(コルネット)を手にした執筆者は、その秋の運動会で炎天下の中行進曲を何周も演奏させられました。『ワシントン・ポスト』『星条旗よ永遠なれ』『士官候補生』『マンハッタン・ビーチ』などの行進曲の作曲者として、アメリカ海軍のジョン・フィリップ・スーザ( John Philip Sousa : 1854 - 1932 )は大変有名です。

 一方ドイツで作曲された行進曲はどうでしょうか?プロイセン王国で軍楽隊・警察官・郵便局員として生きたカール・タイケ( Carl Albert Hermann Teike : 1864 - 1922 )は、『双頭の鷲の旗の下に』『旧友』『ゆるがぬ忠誠』『ツェッペリン伯爵号』などの行進曲を作曲しました。現在では中高生の吹奏楽部や社会人吹奏楽団により、B管トランペットで演奏されるこれらのドイツの行進曲の旋律は、まさにロータリーフリューゲルホルンによって演奏されていたのです。



 ロータリーフリューゲルホルンの楽器の形状はロータリートランペットによく似ていますが、以下のような外見的特徴があります。

・ベルが根元から太く、ロータリートランペットより大きい場合が多い。
・伝統的にウォーターキィが無い(最近の物は付いている。更にハイトーンクラッペンを複数装備したものまである)。
・3番ロータリーをぬけた先が外側にカーブしている。
・チューニングはマウスパイプで行う。




B管ロータリートランペットとロータリーフリューゲル
ホルン



 ピストンフリューゲルは、イギリスのブリティッシュスタイルのブラスバンドでは定番の楽器です。ビッグバンドやジャズ、金管アンサンブルでもよく使われています。オーケストラでは殆ど指定の無い楽器ですが、Igor StravinskyのThreni、R.Vaughan Williamsの交響曲第9番などで使用されています。一方ロータリーフリューゲルは、主にドイツ、オーストリア、そしてチェコ、スロバキアなどの東欧の民族バンドによく登場します。これらの音楽では、フリューゲルホルンが主役の旋律を担当し、トランペットは合の手のファンファーレを担当する、と言った役割に分けられています。このため、ピストンフリューゲルでは柔らかい音色を出すために深めのマウスピースを使用するのに対し、ロータリーフリューゲルでは旋律を担当するために浅めのマウスピースが使用されます。音色の例えとして、ピストンフリューゲルがホルンとトランペットの中間、コルネットがフリューゲルとトランペットの中間、と言った言い方をされることがありますが、ロータリーフリューゲルはロータリートランペットの音色を更に太くしっかりとさせたような音になります。





ドイツ語圏・東欧諸国周辺地図
ロータリーフリューゲルはドイツ、オーストリア、
チェコ、スロヴァキアの街の民族バンドでよく使用
されている








ボヘミアとモラヴィア
Böhmischer und Mährischer

 ロータリーフリューゲルには、ボアサイズが大きいボヘミアン(Böhmischer)と、ボアサイズが小さいモラヴィアン(Mährischer)が存在します。ボヘミアとモラヴィアは、現在のチェコを東西に二分する地域で、チェコ語を母語としながらそれぞれ異なる歴史と文化を持っています。



現在のチェコにおけるボヘミアとモラヴィア
オレンジ:ボヘミア 緑:モラヴィア
白:シレジア 赤:モラヴィアの飛び地
青:1920年にモラヴィアになった土地

© 2006 Kirk
Bohemia, Moravia, moravian enclaves in Silesia, and change of moravian borders in 1920






 20世紀、チェコと隣国のスロヴァキアはチェコスロヴァキアとして存在していました。しかし文化の違いから、1993年に両国は独立し(ビロード離婚)、それぞれの道を進むことになります。現在のスロヴァキアは、19世紀のオーストリア-ハンガリー帝国時代はハンガリー王冠領( Transleithanien )に属していました。対してチェコはオーストリア帝冠領( Cisleithanien )に属していました。この文化圏の違いから、チェコの中でも西側のボヘミアは、西に隣接するドイツ帝国の西欧的文化に、モラヴィアは東に隣接するスロヴァキアやハンガリーの文化に、それぞれ影響を受けています。



19世紀のオーストリア=ハンガリー帝国
オーストリア帝冠領(赤)、ハンガリー王冠領(青)
共同統治国ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(緑)



 このボヘミアとモラヴィアの文化・民族の違いは、19世紀の作曲家の作風を聴けば明確です。ボヘミア出身のAntonín Dvořák ( 1841 - 1904 )の作品では、親しみやすいボヘミアの旋律がよく登場します。一方モラヴィア出身のLeoš Janáček ( 1954 - 1928 )の作品では、民族色の非常に強いモラヴィア的な音楽を聴く事ができます。

チェコ(モラヴィア東部)の伝統的なバンドの例  Mistříňanka



 次に、国ではなく街(都市)の位置関係について考察してみます。金管楽器のバルブ弁が発明され発展していったのは19世紀でした。19世紀~20世紀のヨーロッパは、合併や分裂、戦争を繰り返す帝国時代の終焉から二度の世界大戦を経て、東西冷戦、そして共産主義体制の崩壊に至るまで、時々刻々と国境や国名が変わった時代でした。その様な時代の中では、都市の属する国の変化に関わらず、都市の地理的立地をもとに文化を考察する事で、都市同士の人や文化の行き来を焦点化することができます。

 現在のチェコの首都プラハは、神聖ローマ帝国の首都となった時代がありました。1346年に神聖ローマ帝国の皇帝にボヘミア王カレル1世が選ばれたときに、首都がプラハに移されたのです。16世紀後半時代には、ロンドン、パリ、ベルリン、ウィーンを抜いてヨーロッパ文化の中心都市となっていました。またドレスデン、ライプツィヒ、ニュルンベルク、ベルリンとも距離的に近く、ドイツ文化も街に流入してきていました。

 一方、オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンは、19世紀頃にはモラヴィアとの文化的なつながりが強くなりました。ウィーンは東欧・20世紀共産圏のプラハよりもずっと東側に位置し、モラヴィアのすぐ南・スロヴァキアの近くにある都市として古くから栄えていました。現在ウィーン空港を利用するスロヴァキア人は大変多く、スロヴァキアの首都ブラチスラヴァとウィーンは直線距離で50km程しか離れていません(現在の京都と神戸、東京と平塚程度)。プラハを文化の中心とするボヘミアに対し、ウィーンからの文化を受け入れる事はモラヴィアの人々にとってのある種のアイデンティティーであったことが伺えます。




ドイツ・オーストリアの主要都市とプラハ、ブルノ
ボヘミアの主要都市はプラハ、モラヴィアの主要都市はブルノ
ウィーンはモラヴィア、スロヴァキア、ハンガリーに近い



 北ドイツ文化圏のボヘミアと中欧文化圏のモラヴィアという違いは、19世紀後半~20世紀のロータリートランペット・ロータリーフリューゲルホルンの設計にも変化をもたらしました。

 20世紀初頭のベルリンでは、ケルン( Köln / Cologne )に工房を構えるJosef Monke ( 1882 - 1965 )の楽器が供給されていました。この楽器はベルが135mmと大きく、豊かで力強い音が特徴的でした。MonkeのB管を使う事はベルリンの伝統となり、20世紀後半においてもベルリンフィルの入団オーディションではMonkeのB管で演奏する事が指定された課題があったほどです。北ドイツの力強いトランペットの音はそのままボヘミアにも伝わり、結果としてボヘミアのフリューゲルホルンは、ボアサイズを大きく取った力強く豊かな響きが好まれたということが考えられます。

 一方で20世紀初頭のウィーンに供給されていたロータリートランペットは、ドレスデンに工房があったFriedrich Alwin Heckel ( 1845 - 1915 )の制作した楽器でした。これは元々ドレスデン宮廷歌劇場の為に柔らかい音色を求めて製作した楽器をもとに、更にウィーンの要求に応えたものでした。ベルサイズは125mm~130mmと小さく、ボアは10.9mm、更にドレスデンの楽器にはあったベルクランツ(ベル外側に付けるドーナツ状の金属の板)が無かった為、ベル厚は0.3~0.35mmと非常に薄い楽器でした。この様なトランペットがウィーンでは主流となっていた為、フリューゲルホルンもボアが小さく、明るく柔らかい音の出る楽器がウィーン・モラヴィアでは一般的だったことが考えられます。

※ F.A.Heckelの後、Th.A.Heckel、Arno Windisch、Berndt C. Meyerらが後継した。

 今日のロータリートランペット・ロータリーフリューゲルホルンでは、使用するロータリー機構の下請け製造工房の都合で、11.0mmを切る細いボアの楽器が少なくなりました。また、より現代のニーズに合ったボアの大きな楽器が好まれるようにもなりました。フリューゲルホルンのボアを2種類から選択してオーダーできる製作者もますが、現在の楽器で音色に大きく関与しているのはボア径ではなくベルの直径であると言えそうです。では次に、ベルの直径について考察していきましょう。



ロータリーフリューゲルホルンのボア径

10.6mmKrinner Modell "Vlado Kumpan"
10.65mm Krinner
11.0mmCerveny, B&S, Kühnl & Hoyer, Jürgen Voigt 
10.5mm
 - 
11.2mm
WEIMANN, Dowids, Kordick
11.2mmWeber
11.4mmMiraphone
11.5mmWeber
11.7mmM.Jiracek, Josef Lidl





ロータリーフリューゲルのベルの大きさ

ベルサイズの異なるロータリーフリューゲルホルン


ベル口径は160mmと135mm
B管ロータリートランペットのベル口径は
125mm~140mmである



 19世紀から20世紀初頭のドイツでは、135mmや140mmのベルサイズのロータリーフリューゲルホルンが多く作られていました。これはウィーン、ボヘミア、モラヴィアでも同様で、ベルサイズに地域性はあまり無かったようです。ロータリーフリューゲルホルンの使用用途は様々で、街の吹奏楽、民族音楽を演奏するブラスバンド、軍楽隊、狩りの合図の為に持ち出す等が考えられます。軍楽隊や狩りの合図の為に、野外に携行品として持ち出す楽器の場合、ベルが大きいと持ち運びに不便になります。よってこれらの使用用途では小さいベルが好まれたのです。一方で、吹奏楽や民族音楽を屋内で演奏する場合、あるいは屋外でも座って演奏するスタイルの場合、大きなベルでも不便な事はありません。むしろ大きなベルの楽器はより豊かな音色を出す事が可能になります。このように、楽器の使用用途によってベルサイズのニーズが異なっていたことがわかります。

 近年、豊かな音色を求めて160mm程度の大きなベルの楽器を製作することが、ドイツ・オーストリアの楽器製作者の中で一般的となっています。一方、チェコで製造されているCerveny、M.Jiracek、Josef Lidlなど、135mmベルの楽器をラインナップにあげているメーカーもあります。またVotrubaやDowidsのように、オーダー段階でベル径を選択可能にしている楽器製作者もいます。ピストンフリューゲルのベル径と同じように、奏者の好みによって自由にベル径を選択できる楽しみもまた、現代ロータリーフリューゲルホルンの魅力と言えるでしょう。




ロータリーフリューゲルホルンのベル径

135mm Votruba, Cerveny, M.Jiracek, Josef Lidl
140mmKrinner, Votruba
145mmM.Jiracek
150mmVotruba, Dowids, Schagerl, WEIMANN, Jürgen Voigt
155mmKühnl & Hoyer
158mmKordick
160mmVotruba, Dowids, Schagerl, Kühn, B&S, Cerveny, Miraphone 
170mmKühn





フリューゲルホルンの歴史

 記述途中



サクソルンとフリューゲルホルン

 記述途中








 
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